パシフィック・リム



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2013年。海底地震の影響で太平洋海底の裂け目に異次元の扉が開き、巨大なKAIJUが多数出現。太平洋沿岸の大都市を次々と襲った。人類は結託して英知と莫大な費用を注ぎ込み、2人1組で操縦する巨大ロボット兵器イエーガーを開発。KAIJUを次々と撃退していく。だがさらに強力なKAIJUが続々と出現、徐々に人類は存亡の危機へを追い込まれていった。5年前の戦闘で悲劇に見舞われて心に傷を負って以来、世界を転々としていた元イエーガーパイロット、ローリー(チャーリー・ハナム)は、司令官ペントガスト(イドリス・エルバ)によって再び招集される。相性の良さを買われて実戦経験の無いマコ(菊地凛子)と組む事になるが。


事前の期待が大きかった為か、公開直後のネットでは賛否両論だったこの映画。若干の不安とそこそこの期待でもって臨んでみたら、かなり面白かった。巨大ロボット対怪獣の、単なるド付き合い映画かとの事前の予想は、気持ち良く裏切られました。ドラマ部分まできっちりしている、良く出来た映画だったのです。監督&脚本のギレルモ・デル・トロは才能は認めるものの、私とは相性が良いんだか悪いんだかの監督だったので、過剰な期待を抱かないようにしていました。しかしやはり彼は単なるオタク監督ではなく、プロの映画監督だったのです。


冒頭から掴みはOK、その後も飽きさせないようにドラマとVFX映像を織り交ぜて上手く話を進め、後半における怪獣による香港襲撃と迎え撃つイエーガー達の戦いになだれ込みます。危機が迫る中、待ってましたの旧式イエーガー、ジプシー・デンジャーの登場!と、盛り上げも上手いもの。無駄に凝っている魅力的な出撃メカニズムのくだりや、必殺技を繰り出すあたりなど、日本の特撮もの・ロボットアニメの強い影響が散見されるものの、そのような細部にのみ引っ張られる事なく、映画全体をがっちりとまとめ上げています。ロボも怪獣も大好きなのはこちらにも良く伝わっても、それらが映画全体のバランスを損なうことなく演出されていました。それがちょい物足りなさに通じるのも事実ではありますが。例えば必殺技を繰り出す場面も、日本のアニメならばもっと見栄を切るようなショットや、「溜め」を多用する事でしょう。しかしそのような要素は殆どありません。またロボットはあくまで道具であって、「登場人物」といった特別扱いは余り伝わりません。多国籍軍でロボットも多種多様なのだから、それぞれにもう少し見せ場や描き分けが出来ていたら、と残念に思う部分もあります。ここら辺のドライさは、日本のアニメ・特撮と、西洋のそれとの感覚的な違いなのでしょう。同様に、自己犠牲や泣かせ所である筈の別れの場面等も、ドライなタッチで描かれています。


それでも、です。心の傷を乗り越えて、やがて結束していくローリーとマコのドラマ(主役2人は好演だし、菊地凛子はSFヒロインを堂々と演じていました)、ペントコストとマコの疑似父娘ドラマ等(イドリス・エルバ、素晴らしい)、定番ではあるもののエモーショナルな出来になっていました。私自身がドラマ部分で1番気に入ったのは、ローリーとマコが劇中では恋愛関係にならない事です。彼らはまず何よりも、共に互いに命を預け合う信頼出来るパートナー同士なのです。非常に西欧的であると同時に、戦場でのリアリズムをも感じたし、また映画にノイズとなる余計な萌えやウェットな情感を排除したのは清々しい。非常に好感が持てました。オタク科学者の描き方、香港で登場するデル・トロ組怪優ロン・パールマンなど脇役も笑わせてくれますし、彼らも印象に残ります。デル・トロ演出だけではなく、共同脚本家、原案者のトラヴィス・ビーチャムの功績も湛えましょう。


売りとなっているKAIJU対ロボットの戦闘場面は凄まじい。2度の劇場鑑賞の内、初回はIMAX 3Dで観て大正解でした。巨大映像と大音響に飲み込まれ、圧倒され、もみくちゃにされます。超高画質の大画面と超高音質の大音響でもって、空前絶後の映像・音響体験となりました。本当に手に汗握りますよ。2D撮影の3D変換映画とあって、3D効果は余り期待していなかったら、こちらも好調。かなりの立体感と奥行き感がありました。それでもショット繋ぎが細かくなる戦闘場面では3D効果はかなり減退するし、効果に慣れた中盤以降からは3Dに意識が行かなくなるのも事実ですが。2度目は通常シネコンでの3D上映、中画面での鑑賞でしたが、程々の映像と音響だったので、ディテールに注視出来る余裕が出来ました。各イエーガーの関節が細かい動きを見せてくれたりといった、アニメーションの緻密さも楽しめます。


本作は高額の製作費が掛かっているものの、日米ともに興業的にはやや物足りないものとなったようです。集客力のある大スターは出ていないし、そもそも怪獣対ロボットという男子心のみターゲットにした映画に見えているからでしょう。しかしそんな性差など関係無しに、この映画は多くの観客にとって楽しめる映画になっていると思います。『パシフィック・リム』は大傑作ではないし、脚本も含めて時として細部の粗さが目立ちます。特に後半は、それまで大切にしていた筈のディテールまでもすっ飛ばしてしまう乱暴さ。でも正統派娯楽映画として十分以上に面白い映画に仕上がっているし、また前代未聞の映画らしい映画ともなっています。これを映画館で見逃すなんて勿体無い。そう、率直に言って私はこれが大層気に入ってしまったし、何よりもこの映画の持つパワーに参ってしまったのです。今夏観た映画の中で最高に面白かった、パワフルな映像&音響体験でした。


パシフィック・リム
Pacific Rim

  • 2013年|アメリカ|カラー|131分|画面比:1.85:1|2D撮影/2D・3D上映作品
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): Rated PG-13 for sequences of intense sci-fi action and violence throughout, and brief language.
  • 劇場公開日:2013.8.9.
  • 鑑賞日:2013.8.18.(1度目)、2013.8.30.(2度目)
  • 劇場:109シネマズグランベリーモール7(1度目)、TOHOシネマズ ららぽーと横浜5(2度目)/デジタルIMAX 3D鑑賞。公開2週目の日曜15時25分からの回、364席の劇場は約半分の入り(1度目)。デジタル3D鑑賞。金曜23時50分からの回、字幕版3D上映は20人程の入りで全員男性(2度目)
  • 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/pacificrim/ 予告編、壁紙ダウンロード、イエーガー・デザイナー、KAIJUサバイバル・ガイド等、盛りだくさん。