エリジウム



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2154年人口爆発により地球上はスラム化。極一部の富裕層のみが軌道上にある宇宙コロニー・エリジウムに移住し、豊かな暮らしをしていた。そこではあらゆる怪我や病気が治る医療システムがあり、富裕層はその恩恵を被っているのだ。一方、大多数の貧民は、劣悪な住・労働環境での苦境を強いられていた。不治の病や大怪我を治すべくエリジウムに密航しようとするも、強硬な長官デラコート(ジョディ・フォスター)により撃墜されてしまうのだ。元札付きの肉体労働者マックス(マット・デイモン)は、ロボット工場での事故により多量の放射線を浴びてしまい、余命5日と宣告されてしまう。マックスは犯罪組織のボスで顔見知りのスパイダー(ワグナー・モウラ)に、助かる為にエリジウムに行かせてくれと懇願する。スパイダーは交換条件として、マックスが勤務していた大企業の社長カーライル(ウィリアム・フィクトナー)の脳内にある、エリジウムに関する情報を盗み出すよう要求する。


前作である処女作『第9地区』であっと驚かしてくれた、ニール・ブロムカンプの監督&脚本第2作です。今度は大作、しかもスターが主演と大掛かりな舞台とあって、やはり見どころの多い映画となっています。前半はあれよあれよという間に、思いも付かない方向に話が転がるのでかなり面白い。前作同様に豪快に人体が血しぶき弾け飛ぶアクション場面も迫力満点。何より、格差社会という社会批評性を盛り込みながらも、活劇精神が中心にどしりとあるのが良い。


しかしながら結論から言うと、私は『第9地区』の方が面白かったでした。あちらの終始予想のつかない展開に比べ、こちらは後半が予定調和、かつ粗くなってしまっているからです。アリシー・ブラガ演ずる幼馴染の看護師への恋などと言った受けが良さそうな要素は、スラム街の迫力に比べて薄っぺらな理想郷の描写と同様に、意外性も無く浅薄にしか思えて仕方ありませんでした。身勝手な男が最後に奮起するという『第9地区』と同じ構成は良いとしても、マックスが前半からかなり強いので、「負け犬の奮起」という点での盛り上がりも、あちらに軍配が上がります。意外性か、あるいはさらにエモーショナルに手を入れる等、ドラマ部分での何らかの工夫が必要だったのでしょう。また後半は手抜きのように粗くなる箇所が目立つのも戴けません。このように全体的に脚本が弱く感じられました。


しかし映画は脚本だけが魅力ではありません。『第9地区』同様に、こちらもSF大道具小道具の楽しさが満載です。富裕層のそれらは色も鮮やかで美しい仕上がりなのに対し、地球上のは小汚くて見るからに危険そうで、無骨なものばかり。例えば社長が乗るヘリコプター。イタリア製高級スポーツカーのような鮮やかな赤と流線型が美しい。一方、ギャングや殺し屋どもが乗るそれは、汚らしくごつごつしていて、メカとしての存在感に溢れています。また銃器も含めた武器類。当たると爆発して人体を木端微塵にする手裏剣や炸裂弾、あるいはレールガンや手持ち盾のようなバリア等、観ていてワクワクするものがいっぱい。この趣向は昨夏観た『トータル・リコール』を思い出させてくれました。特に強烈なのがマックスが身に付けるエクソ・スーツ。外骨格というか、筋肉増強の大リーグ養成ギブスのごとき外観は、脳や神経系に直接ボルトで接続するという乱暴極まりない代物で、かなり痛そう。術後、手術した人間が「おいおい、生きてるゼ」とばかりひるむのが笑えます。瀕死でよれよれのマックスは、こいつによってパワー満点の戦闘マシンになるのです。その大立ち回りは痛快でした。『マッドマックス2』に登場してもおかしくない、装甲改造車もカッコ良い。欲を言えばもっと活躍してもらいたかったです。


マット・デイモンは相変わらずの好演で、マックス役はどんぴしゃ。ジェイソン・ボーンとは全く違った活劇ヒーローを演じていました。ヒーローに対しての悪役という事で、冷徹な長官役ジョディ・フォスターが登場します。彼女もやはり上手いのですが、その手先として暗躍…どころか、派手に暴れるのがクルーガーという暗殺者。演じるのはシャールト・コプリー。『第9地区』での明るい愛妻家、でも頭が悪くて義父の威光で役職に就いている小役人を演じていた彼が、こちらでは登場するだけでヤバそうな極悪人を演じています。地声は高めなものの、眼光からして異様な迫力。躊躇無く主人公に倒してもらいたくなる儲け役です。コプリーの存在感が映画には大きく貢献していました。


エリジウム』は欠点も多いものの、娯楽活劇SF映画として楽しめました。私は気に入ったのですが、一方でまた『第9地区』を観直したくなったのも事実です。



エリジウム
Elysium

  • 2013年|アメリカ|カラー|109分|画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(刀剣・銃器等による殺傷がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA): Rated R for strong bloody violence and language throughout.
  • 劇場公開日:2013.9.20.
  • 鑑賞日時:2013.9.20.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜12/公開初日の金曜23時35分からの回は、20人強の入り。
  • 公式サイト:http://www.elysium-movie.jp/ 予告編、エリジウムの世界紹介、ゲーム、映画紹介など。