パッション



★film rating: C+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

大手広告代理店のドイツ支社で働き始めたイザベル(ノオミ・ラパス)は、クリスティーン(レイチェル・マクアダムス)の部下。ある日イザベルは、パナソニックスマートフォン、ELUGAのCF向けアイディアを閃き、これが代理店上層部からも高い評価を受ける。だが手柄はクリスティーンに奪われてしまった。ここから2人の関係はぎくしゃくし始め、さらにクリスティーンの執拗な嫌がらせによって、イザベルは精神的に追いつめられて行く。


2010年のフランス映画『ラブ・クライム 偽りの愛に溺れて』のリメイク。私はアラン・コルノーの遺作であるあちらは未見です。こちらのブライアン・デ・パルマは私が大好きな監督の1人でした。『キャリー』『フューリー』『殺しのドレス』『ミッドナイトクロス』『アンタッチャブル』『カリートの道』等と、色々と楽しませてもらったスリラーの巨匠です。近年は『スネーク・アイズ』以降、すっかりダメな映画ばかりを発表するようになってしまいましたが、ファンゆえに追いかけてしまいます。かつて大好きだった監督の凋落を観るのは悲しいものですが、一方で永遠のワンパターンというか、いつ何見ても金太郎飴状態なのも妙に安心感心してしまいます。『パッション』も相当にヘンテコで、物語や台詞よりも、キャメラワークも含めた映像中心のトリック映画になっているのが、如何にもデ・パルマらしい。特に終盤はオリジナル版とかなり違うのではないでしょうか。見ていて思わず頬を緩めてしまいました。


映画としては相当に不出来です。例えば殺人犯がいつから殺意を抱いたのか今一つ伝わらないとか、中盤のトリックはバレバレとか(但しこれはデ・パルマ映画の見過ぎかも知れません)、毎度毎度夢オチばかりとか、デ・パルマの短所総取りの感すらありました。しかも有ろうことか、スリルが全く盛り上がりません。ゆったりとした編集やキャメラワークも、かつては優雅且つ胃の痛くなるようなサスペンスを盛り上げるテクニックだったのに、すっかり野暮ったくなっていました。


ノオミ・ラパスは演技力はありますが、この手の映画なのだから華のある女優起用であって欲しかったです。贔屓のレイチェル・マクアダムスは『ミーン・ガールズ』以来の久々の悪女役、でも色気が皆無でした。彼女はこの映画のように、如何にもファム・ファタール然とした悪女だと色気ゼロで、むしろ普段の方が陽性の色気を醸し出すタイプ。残念ながらどちらもミスキャストでした。第3の女としてカロリーネ・ヘルフルトも絡んで来て、こちらは雰囲気も含めてまぁ良かったのではないでしょうか。


大体にして、女同士の愛憎絡み合うスリラーという題材からすると、もっとねっとりとした官能が必用だった筈。なのに、それも映画全体に無いのも哀しい。艶もスリルも無いスリラーなんて、観る価値があるのでしょうか。デ・パルマはもうすっかり枯れてしまったのでしょう。


しかし往年のデ・パルマ・ファンには、この映画を観る価値があります。かつて彼の映画に夢中になった身からすると、「やっとるやっとる」という大らかな気分で観られる。安心して観られるスリラーなどというのは、悪い意味での古典芸能の筈なのですが、私は楽しんでしまいました。これはもう、完全にデ・パルマのファン向け、マニア向け、愛好者向け、偏愛者向けの映画という事になります。


巨匠の新作公開の度に「今度こそ往年の輝きを」と期待し、裏切られ続けて10年以上が経ちました。現在のデ・パルマ新作映画は、観ながら過去の作品へと思いを馳せるのが正しい見方なのでしょうか。達成されない想いこそロマンティシズム。そう、デ・パルマが過去に扱ってきたテーマそのものです。となると、新作に対するこの見方そのものが、稀代のロマンティストであるデ・パルマ映画に似つかわしいのかも知れません。


パッション
Passion

  • 2012年|ドイツ、フランス|カラー|102分|画面比:1.85:1
  • 映倫:R15+(肉体損壊、血しぶきなどがみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA): Rated R for sexual content, language and some violence.
  • 劇場公開日:2013.10.4.
  • 鑑賞日時:2009.10.4.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜1/公開初日の金曜23時45分からの回は15人の入り。
  • 公式サイト:http://passion-movie.jp/ 作品紹介、予告編、デ・パルマ・インタヴュー、スペシャル動画など。