地獄でなぜ悪い



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

服役中の妻しずえ(友近)の出所まであとわずか。武藤組の組長・武藤(國村準)は、しずえの夢である娘ミツコ(二階堂ふみ)主演の映画製作を決心する。しかししずえの出所までに急いで作らなくてはならない。敵対する池上組組長・池上(堤真一)との全面対決になりそうな緊張のさ中、武藤組はスタッフ&キャストを全員組織で固める。一方の池上は、密かにミツコに想いを寄せていた。その騒動に巻き込まれたのは、うだつの上がらない普通の青年・橋本(星野源)と、映画監督を夢みている自主映画製作青年・平田(長谷川博己)らだった。平田は自分の夢が叶ったと、超ハイテンションで現場に臨む。


冷たい熱帯魚』『ヒミズ』といった重厚感たっぷりの力作が強烈な印象を残す、園子温の監督、脚本、それに音楽の最新作。この人の娯楽に徹したコメディというのは初めての鑑賞です。何でも過剰の園監督とコメディの組み合わせだと滑るのではないか、との事前の危惧は若干当たりました。実際、前半は面白く観つつもいささか乗れなかったのです。しかし中盤以降、平田が武藤や橋本と合流すると映画にドライヴが掛かって来て、園映画らしくぐいぐいと引っ張られました。あれよあれよと乗せられ、後半は劇場でも笑いが起きるくらい。これは楽しい映画鑑賞でした。


全登場人物の行動原理が思い入れ過剰且つ幼稚、演技も含めて全てが大袈裟なこの映画。血しぶきと嘲笑と愛情と狂気がごったまぜになった後半は、轟音立ててあらゆるものを弾き飛ばす機関車のよう。何だか凄いものを見せられました。自主映画を扱った映画は、作り手の過度の思い入れと青臭さが目立つと、私は余り好きになれません。近年だと『SUPER 8/スーパーエイト』がそうだったし、『桐島、部活やめるってよ』の自主映画部分は少々鼻白んでしまったのです。でもこの映画には、青臭さを吹き飛ばすパワーがありました。それは映画製作のみならず、登場人物の行動を偏愛・狂気と結びつけたからではないでしょうか。特に平田の映画製作への思い入れと自分の世界への陶酔振りが、映画終盤の大混乱で狂気と結びついており、またその無茶振りが思い切り振り切れていて、これには参りました。今まで観た事のない映画という点では、まさしくこの映画もその1本。何だか『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』を思い出しましたよ。


映画のヒロイン・二階堂ふみは、立ち回りの動きは今一つでしたが、刀一閃を頭上から捉えた1ショット等も含め、カッコ良く撮られていました。印象に残るヒロインでしたが、他のキャストも濃かったので突出はしていない印象。でもあのバランスで正解だったのでしょうね。星野源は如何にも情けない男として登場しますが、終幕はまさかの大活躍。平田役の長谷川博己は終始ハイテンションで強烈な印象を残します。そんな大袈裟演技で印象付けられた若手達の中で、抑えた演技を見せた國村準の存在感も独特で良かったです。


観客の好悪分かれる可能性が高いのも、また園映画らしい。私は楽しめました。こういうパワーのある映画は、そう滅多に見られるものではありません。


地獄でなぜ悪い
Why Don't You Play in Hell

  • 2013年|日本|カラー|129分|画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(肉体損壊、血しぶきなどがみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA(USA):-
  • 劇場公開日:2013.9.28.
  • 鑑賞日時:2009.10.13.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜6/3連休中日の日曜21時30分のレイトショウ鑑賞は観客は20人強の入り。
  • 公式サイト:http://play-in-hell.com/ 映画紹介、タイアップ紹介等。