トランス



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ロンドンのオークション会場。ゴヤの傑作『魔女たちの飛翔』が落札された瞬間、会場をギャングどもが襲撃する。競売人サイモン(ジェームズ・マカヴォイ)は実は彼らの仲間だったが、リーダーのマックス(ヴァンサン・カッセル)にスタンガンを突きつけ、返り討ちに殴られてしまう。サイモンは記憶喪失になってしまい、絵の隠し場所も分からなくなってしまった。マックスらは催眠療養士エリザベス(ロザリオ・ドーソン)の協力を得て、サイモンの記憶を呼び起こそうとするが。


ダニー・ボイルらしい捻った展開の中で、多面的なキャラクターが活き活きと動き、尚且つポップでスピーディーな映像と音楽が混然一体となったスリラーの快作です。物語の語り部としてサイモンが画面に語りかける冒頭から、映画は快調に飛ばします。中盤では序盤の疾走から転じていささか様相が変わって来て、ちょい中だるみっぽく感じたのですが、あれは転調の前触れ。ワンクッション置いたものと理解しました。そこからまさかの展開へと転がり込みます。恋愛要素も予想外の展開を見せるものの、これがスリラーとしての物語の根幹に結ぶ着くアイディアが素晴らしい。脚本はジョー・アヒアナとジョン・ホッジの共作で、よくもこんな話を考え付いたものだと感心しました。最後の着地まで見事。唸らされます。相当に込み入った話を、最後まで剛腕で見せてしまうボイルの演出は中々凄い。アカデミー賞を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』よりも、私はこちらの方が断然気に入りました。


映画は記憶を巡る考察にもなっています。過去の記憶や想い出には、思い出さなくても良いものもある…としながらも、それを大胆にスリラーの道具として用いていて、意表を突かれました。見方によっては哲学的に鑑賞する事も可能でしょうが、ここは純粋に作者達の想像力とアイディアに脱帽し、楽しみましょう。


主要人物3人は、徐々に露わになる多面的な人物としてよく描けていましたが、役者も皆好演していました。ジェームズ・マカヴォイはどのような役も違和感無く演じられる俳優ですが、この1作の中だけでもカラフルな表情を見せてくれ、全く素晴らしい。ロザリオ・ドーソンはセクシーな肉体美をよく強調されますが、本作では奥行きのある役を印象深い役に昇華させています。手垢の付いた言い回しで恐縮ですが、強さと弱さを持ちながらも、それが紙芝居になっていない、物語を牽引する人物としても魅力的でした。これは彼女の代表作の1つになる事でしょう。そしてヴァンサン・カッセル。近年はデヴィッド・クローネンバーグ作品での、脇役でも地味に印象に残す程度しか見掛けなかったのですが、ここでは大活躍。単調なダークに染まっているのではなく、人間味のある役を切れ良く演じていました。


内容に関しては殆ど知らずに観に行くのをお勧めします。単に展開だけで見せるのではなく、ドラマも見応えのあるこういうスリラーは、諸手を挙げて大歓迎。断然、気に入りました。



トランス
Trance

  • 2013年|イギリス|カラー|101分|画面比:2.35:1
  • 映倫:R15+(刺激の強い性愛描写、ヌード、殺傷・肉体損壊の描写がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA): Rated R for sexual content, graphic nudity, violence, some grisly images, and language.
  • 劇場公開日:2013.10.12.
  • 鑑賞日時:2013.10.12.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜5/公開初日の土曜21時20分からの回は30人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.foxmovies.jp/trance/ 予告編、各界著名人のコメント、作品紹介等。