ビル・カニンガム&ニューヨーク



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ニューヨークで50年間フォトグラファーをしている80歳過ぎのビル・カニンガム(本当はカニングハムだけど)は、ステージを撮るだけではない。晴れの日も雨の日も雪の日も、街角に立って実際に人々が街中で着ているものを撮り、夜はセレブが集うパーティを撮る。彼は撮影をするだけではなく、ファッションを生きた形で捉え、記録する。ただ彼は、ファッショナブルな人を見ると記録したくなる。それが人生の楽しみでもあるのだ。


ニューヨークのファッション業界の生き証人であるフォトグラファー、ビル・カニンガムを扱ったドキュメンタリ映画を観て来ました。ニューヨークタイムズ紙に名物コラムを2本持っている彼は、プロとしても厳しい仕事をしています。レイアウトにはアートディレクターがうんざりする程に細かくこだわり、パーティでは取材対象から離れた方が良いと、酒や食事をもらわずに水の一滴も飲みません。ただひたすら撮影していきます。普段の生活も質素そのもの。カーネギーホールの隅にある狭い部屋は、ネガの全てを保管したロッカーが所狭しと並び、簡易ベッドがあるのみ。衣服も数着のみ、青い作業着をジャケットにし、レインコートはガムテープで補修しています。バス、トイレは共同で構いません。食事も興味が無く、コーヒーは安ければ安い方が良いと言います。背の高い細面の老人ビルの興味は、ひたすらファッションを観、記録する事なのです。


こう書くと気難しい修道僧のような老人を思い浮かべるでしょう。しかしビル・カニンガムその人は、人当たりの良い、笑いの絶えない飄々とした人物なのです。貶めて笑いものにするのを嫌い、対象を愛でる。彼は本当にファッションに取りつかれていますが、その取りつかれている自分すら笑っているようにさえ見えます。


彼は明らかに仕事を楽しみ、人生を楽しんでいます。それ以外は彼にとっては余計なものなのです。都会の真っ只中、華やかな世界で生きているにも関わらず、文字通りのシンプル・ライフを生きています。そんな彼を観たら、誰だって顔がほころび、元気になるのは当然でしょう。そして同時に彼の仕事への献身振りに、頭が下がるに違いありません。


これは独りの孤高の存在となった、しかし同時に人生そのものを楽しんでいる達人を描いた、楽しい映画なのでした。


ビル・カニンガム&ニューヨーク
Bill Cunningham New York

  • 2010年|アメリカ、フランス|カラー|84分|画面比:1.78:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): Not Rated
  • 劇場公開日:2013.5.18.
  • 鑑賞日:2013.5.28.
  • 劇場:横浜ブルク13 8番シアター/平日火曜夜19時20分からの回は、20人弱の入り。映画の内容のせいか、服飾専門学校生と思しき人が数名。
  • 公式サイト:http://www.bcny.jp/ 予告編、作品紹介、監督による記録など。
  • 公式Facebookhttps://www.facebook.com/BCNYmovie