愛さえあれば



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

コペンハーゲン。ソレントでの娘の結婚式を目前に、乳がんの治療を終えた中年女性イーダ(トリーヌ・ディルホム)は、自宅で夫と若い女との浮気現場を目撃してしまう。傷心状態でのイタリアに渡航直前、イーダは空港の駐車場で車をぶつけてしまうが、その怒り心頭の相手フィリップ(ピアース・ブロスナン)は、娘の結婚相手の父親だった。最悪の出会いをした2人だったが、ソレントにあるフィリップのヴィラを使った結婚式の準備が進む中、イーダとフィリップの仲に変化が訪れる。


日本に輸入されるデンマーク映画は、ラース・フォン・トリアーとかニコラス・ウィンディング・レフンとか、尖がった監督作品が主です。しかしこれは珍しやロマンティック・コメディ映画でした。適度にコミカル、適度にシリアスで、そのバランスも良く楽しめます。スサンネ・ビア監督は今までシリアスな映画主体に撮っていたそうですが、コミカルなタッチに陰影を与えて中々の腕前でした。


最悪の出会いからロマンスが生まれるカップルという定番プロットは、舞台がデンマークからイタリアのヴィラを舞台に移ると、観客のこちらもうきうきするからか、輝いて来ます。これぞ南欧の魔力でしょうか。思わずシャトーを舞台にしたリドリー・スコットの『プロヴァンスの贈りもの』を想起しましたが、こっちの方が演出も地に足が付いていて、ずっと良い映画でした(あちらも嫌いじゃないですけどね)。イーダは癌の転移や夫の浮気に心痛めているけれども、それでもポジティヴな人物像。ヒロイン役トリーヌ・ディルホムは特に美人ではないですが、人物の内面的な魅力を十分に出していてとても良かったです。劇中では40代後半以上の役だと思って観ていたら、実際にはまだ40歳でびっくりです。オールヌードとかあるけれど、スタイルが綺麗だったのはそういう訳ですか。ただこういう映画では、ブロスナンと恋に落ちるもっと強い出来事が用意されていても、とも思いました。でもふとした散歩で恋に落ちるのも現実味があります。作り手は誇張よりもさりげない現実味を選択した、という事なのでしょう。


ブロスナンはジェームズ・ボンド役も含めてそんなに好きな役者ではないのですが、こういう映画は似つかわしいですね。すっかり白髪が増え、顎はたるみ、お腹が出ていても、やはりハンサム。彼の持つどこか軽さが、こういうロマンティックな映画にはぴったりなのです。


終盤の心の揺らぎもちゃんと描かれていて、全体に丁寧な作りが印象的でした。やはり若者の恋愛映画とは少々違うという事でしょうか。いえいえ、恋をすれば年齢は余り関係無いのかもね、と思える映画なのです。デンマーク語と英語が飛び交う中、とても楽しく観られました。


愛さえあれば
Den skaldede frisør

  • 2012年|デンマークスウェーデン、イタリア、フランス、ドイツ|カラー|116分|画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(短い性愛描写とヌード表現がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA): Rated R for brief sexuality, nudity and some language.
  • 劇場公開日:2013.5.17.
  • 鑑賞日:2013.5.18.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜9/公開2日目の土曜21時30分からの回は10人の入り。
  • 公式サイト:http://aisaeareba.jp/ 予告編、作品紹介、著名人からのコメント集、ソレントについて等。