舟を編む



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1995年。辞書編集部に馬締(松田龍平)が配属されて来た。内気な彼は営業マンとしては失格でだったが、言葉に対するセンスを見込まれ、新しい辞書「大渡海」制作に必要な人員としてやって来たのだ。人と人とを繋ぐ言葉の海をまとめるべく、日々の地道な作業の積み重ねが始まる。


三浦しをんの小説は読もう読もうと思っていたのに、映画を先に観る羽目になりました。辞書作りの世界なんて、楽しそうではないですか!この映画、気の遠くなるような作業の積み重ねに携わる愛すべき人々を描いた、愛すべき作品でした。ゆったりしたテンポ。面白い登場人物。時折見せるユーモア。人物像は深みには欠けていても、これはこれで心地良い。辞書作りのハウ・トゥーものとしては思っていたよりもあっさりしていて、主人公の馬締を中心にしたラブストーリーに仕立ててありました。そちらも割とあっさりした描写でしたが、そういったタッチがこの映画には似つかわしいと思います。石井裕也監督作品を初めて観て、好ましく思いました。


それにしても松田龍平は良いですなぁ。馬締はうつむき加減で猫背、無表情で声も小さいのだけど、その彼がやがて他者とコミュニケーションが取れるようになっていく、いわゆる「成長物語」にもなっていました。いや、成長物語と言うのはやや大袈裟でしょうか。だって十数年経って他者とコミュニケーションが取れるようになった程度、家の中では相変わらずな面もあるのですから。その穏やかな「成長」も、劇中での作業同様に地味で少しずつの変化とされていて、現実味があるものでした。一方の先輩役オダギリジョーのチャラさも対照的で可笑しく、これも良かった。宮崎あおい加藤剛ら、わき役陣の充実ぶりにも目が行きます。彼らの品のある所作もこの映画に欠かせない要素でしょう。


驚いたのは後半にある展開…というか省略です。え!?と。これも面白い。これは原作通りなのでしょうか。


実はまっとうな青春恋愛映画のフォーマットに則っているこの映画。でもそれが辞書編纂という「普通の人が知らない世界」を舞台にしているので、最後まで興味も持続します。原作も読みたくなりましたよ。TVドラマとの連動とかでなはない、こういう単独の地味な良作にも客が入ってもらいたいものです。


舟を編む

  • 2013年|日本|カラー|133分|画面比:1.85:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): -
  • 劇場公開日:2013.4.13.
  • 鑑賞日:2013.4.13.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜12/公開初日の土曜21時15分からの回、ららぽーと横浜内TOHOシネマの242席の劇場は4割程度の入り。
  • 公式サイト:http://fune-amu.com/ 予告編、作品情報、「大渡海」作業工程など。