コズモポリス



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

20代でウォール街にて巨万の富を築いているエリック(ロバート・パティンソン)は、マンハッタンを豪華なリムジンで常に移動している。最新の情報を備え付けのコンピュータで入手し、掛かり付けの医師に来てもらって毎日の健康診断を欠かさず、セックスも排便も外界から隔絶された車内で行うのだ。入れ替わり立ち代わり、リムジンにやってくる人々。そんな中、エリックを狙っている暗殺者がいるとの情報が入る。暗殺者が近寄りつつあり、徐々に危険度が高くなっていくようなのだが…。


ドン・デリーロの原作は未読ですが、なるほど、この設定で映画化によくも踏み切ったものだ、と思ってしまいます。109分の上映時間の内、恐らく60分以上はリムジン内部の描写だからです。しかも全編に渡って美しくも難解で観念的な台詞で埋め尽くされていました。よくもこんな題材を映画化に挑戦したものです。雇われ監督とは言え、デヴィッド・クローネンバーグの勇気を買いたい。しかし率直に言って私にも少々退屈でした。台詞の美しさは認めますが、冷ややかで硬質なこの映画で全編そればかりだと、さすがに飽きが来ます。次から次へと顔を出す個性的な役者達(サラ・ガドンマチュー・アマルリックジュリエット・ビノシュサマンサ・モートン等々)の演技は楽しかったけど、それだけではねぇ。豪奢なリムジンという閉鎖的で静かで安全な、言わば子宮内での物語という点が、クローネンバーグらしいけども。


また、肛門、女性器、車内の便器、銃創と、この映画は「穴」の映画でもあります。これもまたクローネンバーグらしい。彼の映画で「穴」と言えば、私は真っ先に『ヴィデオドローム』における、ジェームズ・ウッズの腹に出来た女性器状の裂け目を思い出します。そんな訳でこの映画は、やはりクローネンバーグらしい映画だったのでした。


それでも『コズモポリス』にも良い場面はあるのです。例えば古風な書店での妻役サラ・ガドンとパティンソンが会う場面の雰囲気は好きですし(最初は図書館かと思った)、ベストはラストショットでしょう。それまでいささか退屈を誘われていた私も、そのラストでハッとしました。これは現代社会版『ヴィデオドローム』なのか、と。ただそこに辿り着くまでが長い。その長さもエリックが経験する旅として必要だったのかも知れないけれども、長いと退屈は違います。個人的感覚では、クローネンバーグ作品は90分台がベスト。2時間近くなると退屈な映画が多いです。本作は109分。あと20分は短くて良かったです。


映画の終盤は長回しが多く、その中をポール・ジアマッティが大奮闘。起伏の多い、如何にも彼らしい演技で楽しい。私にはほぼ初見のパティンソンも、曲者のヴェテラン相手に健闘していたと思いました。クローネンバーグの次回作にも主演するみたいですし、相思相愛らしいのは結構な事です。


冒頭のタイトルバックがジャクソン・ポロックっぽいな…と思ったのですが、現代アートの引用は吉。かつては凝ったデザインが多かったクローネンバーグ映画でしたが、近年は簡素なものが多かった。これは控え目ながらも凝ったタイトルでした。常連ハワード・ショアの音楽はエレクトロ路線、相変わらずクローネンバーグ作品では新機軸を打ち出して元気です。


コズモポリス
Cosmopolis

  • 2012年|フランス、カナダ、ポルトガル、イタリア|カラー|108分|画面比:1.85:1
  • 映倫:R15+(刺激の強い殺傷、肉体損壊、性愛描写、ヘア・ヌード、性的な会話がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA): Rated R for some strong sexual content including graphic nudity, violence and language.
  • 劇場公開日:2013.4.13.
  • 鑑賞日:2013.4.13.
  • 劇場:横浜ブルク13 シアター9/公開初日の土曜11時30分からの回、129席の劇場は、クローネンバーグの新作とあってか、8割以上の入り…なのですが、途中からあちこちで寝音が(^^;
  • 公式サイト:http://cosmopolis.jp/ 予告編、作品情報など。