アンナ・カレーニナ



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1870年代の帝政ロシア。外交官の夫カレーニンジュード・ロウ)と幼い息子がいる、若く美貌の持ち主アンナ・カレーニナキーラ・ナイトレイ)は、若い貴族の将校ヴロンスキー(アーロン・テイラー=ジョンソン)と出会い、恋に落ちる。一方、素朴な地主リョーヴィン(ドーナル・グリーソン)は、アンナの兄嫁の妹キティ(アリシア・ヴィキャンデル)に恋をし、求婚するも、ヴロンスキーとの結婚を期待する彼女に断られてしまう。


文豪レフ・トルストイの名作文学を華麗に映画化…といっても私は原作は未読。監督は『プライドと偏見』『つぐない』等、デヴュー早々から英国文芸路線、且つ現代的な映画を送り出して来たジョー・ライト。私の好きな監督の1人でもあります。前作『ハンナ』ではアクション・スリラーでの様式美を追及したライトが、今度は古典文学の映像化で様式美を追及していました。片方は幸福から崩壊へと突き進み、もう片方は崩壊から幸福へと進んでいくという、対照的な男女2組が、独特の世界の中で描かれていて、とても良かったです。


映画は非常に面白い作りになっています。全ては舞台劇として描かれているのです。つまり登場人物は皆、舞台劇の登場人物なのです。彼らは舞台裏でも俳優としてではなく人物として移動していくので、かなり面白い映像となっていました。時に書き割りの、時にロケの空間を自在に行き来しつつも、舞台劇の空間を映画の中に解き放つ野心作なのでした。この世界を映画を観る上での障壁として感じてしまい、登場人物に感情移入出来ないという意見もありましょう。しかしトム・ストッパードの脚本も含めて、そもそも作者達は観客の感情移入を意図していないように思えました。己の激情に率直に突き進み、救済を拒み、やがて破滅していくヒロインの行動は、普段我々が生きている道徳的な社会という枠組みを意識していたら、中々出来る事ではありません。時には社会が個人に強要する「倫理」「道徳」といった概念から自由なアンナは、物語の主人公としてとても魅力的とも言えるのです。しかし観る側に拒絶反応が出てしまうのは、ひょっとして観客が「ああは自分はなりたくない」「ああなったら怖い」からなのかも知れない、とも思いました。つまり自分がなるのが怖い人物なのではないか、と。


アンナの相手役ヴロンスキーがハンサムであるものの、とても安っぽく魅力に欠けていて、あれも意図的なものだったのか気になりました。原作ではどういう描かれ方なのでしょうか。演ずるアーロン・ジョンソンは、キック・アスからジョン・レノン、平和主義の麻薬密売人、さらにロシアの貴族役とは、芸域が広いですね。


美術や豪奢な衣装、カメラワーク等もとても魅力的で、久々に画面に酔える映画でもありました。好悪はっきり分かれる映画であろう、とは思ったけれども、私はとても気に入ったのです。そう何度も見返す映画ではないだろうでしょうけれども。ライト作品常連のダリオ・マリアネッリの音楽は、序盤から戯画化された側面を強調し、しかも鳴りっぱなしで少々うるさく思えました。が、映画が徐々に落ち着いていくに連れ、耳馴染みの良いものへと感じられて行きました。


アンナ・カレーニナ
Annna Karenina

  • 2012年|イギリス|カラー|129分|画面比:2.35:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): Rated R for some sexuality and violence.
  • 劇場公開日:2013.3.29.
  • 鑑賞日:2013.4.6.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜PREMIER/公開2週目の土曜23時45分からのミッドナイトショウは、私を入れて7人の入り。
  • 公式サイト:http://anna.gaga.ne.jp/ 予告編、作品情報、ギャラリー等。