シュガー・ラッシュ



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

舞台は昔ながらのゲームセンター。夜になり閉店すると、ゲームの世界の住人達は自由意志の元で行動するようになる。そんな世界で、30年来の人気ゲーム「フィックス・イット・フェリックス」の悪役ラルフは、人に忌み嫌われ、友達も居ない悪役稼業にすっかり嫌気が差していた。長年の不満が爆発したラルフは、通常はヒーローしか手に入れられない金メダルを自分が手に入れられれば、皆を見返す事が出来ると思い立ち、他のゲームでの金メダル獲得を目論む。しかし彼は、最新のグラフィックを用いたFPS「ヒーローズ・デューティー」で「最近のゲームはいつの間にこんなに暴力的になったんだぁ!」とパニックを起こし、すったもんだの騒動でカートレーシーングゲーム「シュガー・ラッシュ」に迷い込んでしまった。そこでバグキャラゆえにレース出場を禁じられた少女ヴァネロペと知り合う。


ここ何年かはピクサー作品の、以前に比べての質の低下が気になる昨今ですが、本作はピクサーの親会社ディズニーのCGIアニメ映画です。期待はしていたのですが、実際に観てみるとそれ以上の出来栄えで、これが素晴らしい傑作でした。友情、恋愛、ドラマ、アクション、ミステリ…色々な要素が過不足なく入っていて笑いもたっぷり。ちょっと感動もさせられます。扱っている題材からしピクサーの『トイ・ストーリー』シリーズを彷彿とさせる内容でした。


ラルフは長年の仕事で勤続疲労を起こしている中年男性そのもの。しかも短気な乱暴者で、直情的で周囲が見えません。非常に人間臭く、ダメなところも多いキャラですが、単純な善性も含めて魅力的です。そんな彼に自分を重ねて感情移入するのも良いでしょう。あるいは、バグだからという理由で仲間外れにされており、レースに出場してプレイアブル・キャラ(ユーザーが操作出来るキャラ)の座を獲得したい、という少女ヴァネロペに感情移入するのも良いでしょう。頑張り屋で元気な、でも陰のある彼女も、とても魅力的なキャラです。他にも、生真面目でも案外良いヤツのフェリックスや、女性の鬼軍曹カルフーンら、脇役も印象に残ります。ピクサー作品に比べると印象に残るキャラは絞ってありますが、これだけ内容盛りだくさんの映画ならば、これで充分でしょう。こうして見ると、過剰な作風のピクサーに対して、絞るべきものを絞って単純明快化して来たディズニー・アニメの伝統を感じました。こうした作風の違いは面白いものです。


映画はゲームを扱っているとあって、懐かしいキャラもあちこちに登場します。パックマン、テニスゲーム、ディグダグストリートファイター、それに一瞬だけメタルギア・ソリッドまで…。ラルフは恐らくドンキーコングのイメージでしょう。マンションを破壊しまくるラルフの投擲攻撃を避けて、フェリックスは何でも直すハンマーで修理していく、というゲームなのですから。ちょっとマリオも入っているかな。そして「シュガー・ラッシュ」は「マリオ・カート」の女の子版です。カラフルでコミカル、キュートでエキサイティング。レース場面のスピード感と爽快感、そして迫力は手に汗握るものとなっています。


全編笑いもたっぷりですが、映画後半はそれまで描かれていたドラマの集大成とばかりに躍動します。物語を前進させようとするエネルギーが漲り、アクションを語り、そして幾つかの意外な真相が明らかになります。お決まりのような感動場面も、最後の大団円もありますが、注目すべきは終盤の人生に対する作者の考え方でしょう。人生における自分の役割を受け入れるという、どこか哀しみをたたえながらも、映画はそれでもハッピーエンディングを迎えます。考えようによっては残酷でもあるのですが、それもまた人生の真理でもあります。こうしてアニメならではの飛躍や誇張、省略も楽しい、スカッとする娯楽映画は幕を閉じるのでした。3D効果もとても良く、大満足の鑑賞でした。これは多くの人にお勧め出来る傑作です。


残念なのは字幕版は都心の1館のみ上映で、実質吹き替え版しか観られない事。選択の自由という観点からも、もう少し字幕版の上映を望みたいものです。例えばレイトショウ以降の回は字幕版に切り替えてしまうとか。デジタル上映なのだから何とかならないものなのでしょうか。ラルフ役はジョン・C・ライリーだし、カルフーン役は『glee』などのジェーン・リンチですよ。彼らの声も聴きたかった。


冒頭におまけとして付いている6分間の短編『紙ひこうき』も良かったです。台詞無しのパートカラー/モノクロ映画は、原題の『Paperman』の方が内容に合っているものでした。よって邦題は少々残念ですが、これも面白かった。ネット上では早くも、主人公が勤務中に色恋に夢中になって…等と言う批判もあり、まぁそれはそうなのですが、私は楽しめましたよ。終盤のよもやの展開が、これまた好き嫌い分かれそうですが。この映画が何気に凄いのは、男性の主人公が一瞬で恋に落ちるのが説得力があるくらい、女性キャラが登場して即、魅力的に描かれている事です(彼女の顔つきは近年のディズニー路線に近いものでした)。数分のアニメは瞬発力が問われますが、それが一目惚れという題材となると、さらに高度なものが求められるものですな。今年のアカデミー短編アニメーション部門受賞作、とか全く知らずに観ていたのですが、印象に残る映画でした。


シュガー・ラッシュ
Wreck-It Ralph

  • 2012年|アメリカ|カラー|108分|画面比:2.35:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): Rated PG for some rude humor and mild action/violence.
  • 劇場公開日:2013.3.15.
  • 鑑賞日:2013.3.30.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜1/公開2週目の土曜0時10分からの回は十数人の入り。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/sugar-rush/ 予告編、映画情報、ゲームなど。