クラウド アトラス



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1849年の南太平洋上で病に倒れた若き弁護士アダム(ジム・スタージェス)は、医者グース(トム・ハンクス)の治療を受ける事になるが、その裏には卑劣な企みが隠されていた。1936年スコットランド、アダムの航海日誌を読んでいる若き作曲家ロバート(ベン・ウィショー)は、恋人シックススミス(ジェームズ・ダーシー)の元を離れ、大作曲家エアズ(ジム・ブロードベント)の元で採譜師として住み込むものの、やがて自分の作曲を始める。1973年サンフランシスコ、物理学者となった老シックススミス(ジェームズ・ダーシー)は、ひょんな事から知り合った記者レイ(ハリー・ベリー)に原発の報告書を渡そうとして、殺害されてしまう。レイは原発職員サックス(トム・ハンクス)と知り合い、サックスは彼女に恋心を抱くようになるが、2人にも魔手が迫る。2012年ロンドン、作家ホギンズ(トム・ハンクス)は一躍カルトスターになり、担当編集者カベンディッシュ(ジム・ブロードベント)は大儲け。ところがホギンズの弟らに印税をかすめ取っているのだから返せ、と脅されてしまう。困ったカベンディッシュは兄(ヒュー・グラント)の元に駆け込むが。2144年ネオ・ソウル、全体主義社会では遺伝子操作で生まれた人造人間を奴隷として扱っていた。人造人間であるレストラン従業員ソンミ451(ペ・ドゥナ)は、隠れてカベンディッシュ原作の映画を隠れて観たりで、やがて自我に目覚める。そんなとき、謎の男ヘジュ(ジム・スタージェス)が現れる。文明崩壊後の遥か後、ソンミは女神として崇められていた。ザックリー(トム・ハンクス)の原始的な村に、高度な文明を持つ社会からの使者メロニム(ハル・ベリー)がやって来る。果たして彼女の目的とは。


6本の短編が相互に関連しながら交錯していく、3時間近い大作です。コミカル編あり、スリラー編あり、恋愛編あり、SF編ありと、1本30分の短編が同時進行で語られて行く仕掛け。それらがSF映画としてまとめられていて、これは私好みでした。この野心的な作品を監督したのは、『マトリックス』3部作で知られるラナとアンディのウォシャウスキー姉妹と、『ラン・ローラン・アン』のトム・ティクヴァの3人です。映画には賛否両論激しいようですが、結論から言うと私は賛。安っぽいところもご都合主義的なところもあっても、とても映画らしい体験が出来たからです。その一点だけでも観て良かったと思います。


1つ1つのエピソードは物凄い訳でもありません。しかし各々のメッセージがパラレルで来られると、圧倒されてしまいます。いや、これは基本的に非常にロマンティックな映画でした。真のロマンティシズムとは実現するかは関係無く、対象に想いを馳せる事。むしろ想いを馳せている人にとっては実現しない方が、ロマンティックなのです。この映画は、その場で実現しない事、自分が目撃しない事、自分が出来ない事に想いを馳せる人々の話でもありました。それが同時進行で徐々に全貌を表す。これはやはり映像の力、編集の力です。これは非常に映画らしい映画でした。デヴィッド・ミッチェルの原作は未読ですが、役者が1人何役もやっているので、輪廻転生といったものが明確になったのも、映画ならではの趣向です。時に人種が変わり、時に性別が変わり、というのはエンドクレジットで初めて分かるところもありますが、これは映像の力、映画の力そのものです。人は生まれ変わる度により善き人になり得るというメッセージが、映画的に表現されていました。


一部で言われているように難解では全くなく、各エピソードは分かりやすいもの。ただ映画の構成が複雑なので、誰がどこに出ていたとか、そういった確認は後でしたくなるでしょう。また全てがハッピーエンディングでもありません。でも世界の中で、歴史の中で、個々人の殆どは埋もれて行っているように思えるけれども、そうではなくて、皆それぞれ役割がきちんとあるのだというメッセージも含めて、基本的に前向きな映画になっていると思いました。かなり凝った構成の映画でも、それが必然として機能し、言いたい事が前面に出ている。これはウォシャウスキーズ&ティクヴァらが、映画作家として力を出せた証しでしょう。『マトリックス』シリーズを余り評価していない私ですが、ウォシャウスキー姉弟作品では処女作『バウンド』と並んで好きになりました。


欠点としては、題名の「クラウド アトラス」が、全体を総括するに相応しい形としては機能していない事です。また私が少々醒めたのは、殺し屋役ヒューゴ・ウィーヴィングが延々追っかけて来るくだりが安っぽかったのと、ラヴシーンでのボカシ。特に後者はBlu-ray Disc発売時には何とかしてもらいたいもの。映倫でPG12に下げる為に規制したのかも知れませんが、映画は作者の意図した形で観たいものです。


クラウド アトラス
Cloud Atlas

  • 2012年|ドイツ、アメリカ、香港、シンガポール|カラー|172分|画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(殺傷及び抑制された短い性愛描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA): Rated R for violence, language, sexuality/nudity and some drug use.
  • 劇場公開日:2013.3.15.
  • 鑑賞日:2013.3.23.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜10/公開2週目の土曜23時40分からの回は20人強の入り。
  • 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/cloudatlas/ 作品紹介、予告編、原作紹介など。