愛、アムール



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

パリのアパルトマンに住むジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)は、仲睦まじい老夫婦だ。だがある日、アンヌは病による発作を起こし、手術にも失敗し、車椅子が必要な不自由な身体となってしまう。「二度と病院に戻さないで欲しい」とアンヌは夫に頼み、ジョルジュはアンヌを自宅介護すると決心するが。


私はスイスの監督ミヒャエル・ハネケ作品は初めてです。本作はどうやら過去の映画と作風がかなり違うらしいとは、事前にあちこちで耳にしていました。ハネケの過去の諸作品、例えば『ピアニスト』『ファニーゲーム』『白いリボン』といった映画で言われたようなのとは違い、本作を鑑賞中には冷酷とか残酷とか冷笑といった単語が一切脳裏に浮びませんでした。


確かに映画は冷静でした。悲嘆に暮れず、感傷に溺れず、ひたすら夫婦を見つめます。しかし冷静で沈着であっても、映画が冷たいかどうかは別です。


映画は全て夫婦の住むアパルトマンの中でのみ描かれ、カメラは外に出る事はありません。窓の外すら映さないのです。しかし人物の行き来があり、またとある動物の使い方もあり、息苦しさは感じませんでした。完全な室内劇は、夫婦の姿に映画を集中させる手段としての演出です。映像も細かい編集で割らない、長回しによるリアリズム。例えば介護老人の移動や動作に掛かる時間が、長回しで実時間で捉えられているので、かなりリアル。よって介護をする大変さ、介護されるつらさが、観客の眼前に投げ出されています。でもドラマ部分では適切にショットを繋いでいました。カメラワークと編集がかなり効果を上げている映画でもあります。そこにじわり浮かび上がらせる夫婦愛。これはドキュメンタリではなく、ドラマ映画なのです。老人が老人を介護するという、非常に現実味があり、かつ重いテーマを扱っている映画ですが、淡々と日常や心理を描写するのに徹していました。しかし一方で老夫婦、特にジョルジュに寄り添っている視点が、この作品に仄かな温もりを与えています。そして何もかも露悪的にならず、慎み深ささえ備えている。この映画には品がありました。


トランティニャンを劇場で観たのは『暗殺の森 完全版』以来でしょうか。すっかり老人となっての素晴らしい名演でした。老いも優しさも狼狽も含めて、非常に人間味のある演技。対するエマニュエル・リヴァも素晴らしい。前半と後半の落差がありつつも、徐々に死に歩んでいく様を演じていて。観ていて楽しいものではないのですが、こちらも感銘を受けました。名手ダリウス・コンジによるHD撮影のクリアな映像も、硬質且つ現実味のある内容に合っていました。娘役の大女優イザベル・ユペールのすっぴんに欧州映画を感じます。


好きかどうかと問われたら答えに窮してしまう映画ではあります。凡庸な答えを許してもらえるならば、自分のあり得るべき将来に置き換えて想像し、果たして自分はどこまで行けるのか、考えさせられる映画でした。皆さんも機会があったら是非に。


愛、アムール
Amour

  • 2012年|オーストリア、フランス、ドイツ|カラー|127分|画面比:1.85:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): Rated PG-13 for mature thematic material including a disturbing act, and for brief language.
  • 劇場公開日:2013.3.9.
  • 鑑賞日:2013.3.19.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜1/公開2週目の平日火曜、翌日が春分の日の23時55分からの回、私を入れて6人の入り。
  • 公式サイト:http://ai-movie.jp/ 作品紹介、予告編等。