フラッシュバックメモリーズ 3D



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

大阪出身のGOMAは、国内外で活躍するディジュリドゥ奏者。30代半ばの2009年11月、交通事故に遭って脳を損傷し、高次脳機能障害となってしまった。それ以来、過去の記憶の多くが欠落し、また最近の出来事も次々忘れてしまう。近所で迷子になったり、電車の乗り方も忘れたり、そして友人達の顔も忘れていたり。ディジュリドゥが楽器である事も忘れてしまった。そのGOMAのミュージシャンとして復活した現在の演奏活動の姿と、過去の映像を交錯させたドキュメンタリ映画。


機会を作ってでも絶対観てもらいたい、音楽ドキュメンタリの傑作。忘れ得ぬ映画体験。劇場で観られて良かった、と心から思える映画でした。記憶や人生といった普遍的な題材を扱っている為、音楽映画というある種の敷居の高さもクリアしていて、間口の広い仕上がりになっています。


ドキュメンタリで3D映画というのは稀にありますが、これはその大成功例でした。アボリジニの民族楽器ディジュリドゥというのは知らなかったのですが、木製なのに構造上金管楽器扱いというのが面白い。ピーター・ガブリエルが使いそうな音色だな…と思っていたら、アボリジニを題材にした映画『裸足の1500マイル』のサントラで使っていたようですね。本作はGOMAとそのバンドのステージ上の演奏模様をひたすら描きながら、その背景にGOMAの過去の写真や映像、日記などが映し出されるという構成になっています。ナレーションは一切なく、説明やGOMA夫婦の日記の抜粋として、字幕だけが出て来ます。20代前半のGOMAに始まり、結婚、長女の誕生、音楽活動、CD発売、ライヴハウスでの演奏模様などが背景として登場。その過去の映像や写真と同時進行して、現在のGOMAが前面に居ます。つまり画面には現在と過去を同時に見せているのです。3Dをこう使うとは、と目から鱗が落ちました。


ドラムス1名とパーカション2名で構成されるリズム隊をバックに、ディジュリドゥを演奏するGOMA。音楽自体は非常にエキサイティングで迫力あるものです。しかし、GOMA自身はその演奏した事そのものも忘れてしまいます。そしてこの映画の撮影も…。そんな状況であがきながら、苦しみながら、やがてGOMAは辿り着きます。記憶とは儚いものだが、それでも人生は先があるのだ、と。今日の自分よりも、明日の自分の方が成長しているのではないか、と。過去は忘れてしまっても、少しでも前に進もうとするGOMAの姿勢には感銘を受けました。例え過去の積み重ねがどのようなものであったとしても、結局のところ「自分」とは「今の自分」なのです。


70分強と短い映画で、且つ各地では短い上映期間しかやらないみたいです。現在は渋谷で上映中。お勧めです、というか、観ろと言いたくなる映画でした。


フラッシュバックメモリーズ 3D

  • 2012年|日本|カラー|72分|画面比:1.85:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): -
  • 劇場公開日:2013.1.19.
  • 鑑賞日:2013.2.16.
  • 劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷1/土曜15時からの回、200席の劇場は7割くらいの入り。3D方式はすっかり見かけなくなったXpand。
  • 公式サイト:http://flashbackmemories.jp/ 予告編、各メディアでの記事、公開劇場情報など。