ダイ・ハード/ラスト・デイ



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

長年音信不通だった息子ジャック(ジェイ・コートニー)が、ロシアで逮捕された。父である警官ジョン・マクレーンブルース・ウィリス)は息子の裁判傍聴の為にモスクワに着くが、その裏では大がかりな陰謀が進行していたのだ。


90分強の間、派手なVFX多用のドンパチが続くアクション大作…という観点ならば、雑な脚本も人物も特に問題とはならない、よくあるバカ映画の1本なのですが。ここまで世間でも叩かれるのは過去の遺産故でしょう。特にシリーズ1作目の『ダイ・ハード』は、緻密な脚本、すっとぼけたウィリスの個性、緩急自在の演出、VFXを多用した大掛かりなアクション、脇役まで個性的で魅力的な登場人物達、随所のユーモアと、公開当時は「理想に近いアクション映画だ」と興奮したものでした。実際、映画史に残る映画になったし、その後にシリーズ化されたのだから、ご覧になった方も多い事でしょう。


で、本作です。1番の問題はこれが「ダイ・ハード」だと名乗っている事です。我らがジョン・マクレーンは、市井の人でも警官でも知恵を使う人でもなく、ただただひたすら外国で無双状態で暴れまくる、危険壮年人物と化していました。前作のマクレーンも脳筋化は見えていましたが、若いクラッカーを守るという警官としての矜持がまだありました。今回はそんなものは吹き飛び、非番の警官が単なる観光客になったとは言え、そのアンチモラル化は酷いものです。例えば前半最大の見せ場であるカーアクション場面。確かに壮観ですが、攻撃を受けている息子を救わんと、一般市民が乗っている車の上を平気な顔してトラックで走り回るマクレーンは、画面に出ませんが、恐らく何十人もの庶民を殺している筈です。暴れまわる相手は悪いヤツだけとのルールを自ら捨て去った、凶悪な親バカと化していました。凶悪な親バカは『96時間』シリーズのリーアム・ニーソンだけで十分ですよ。もっともニーソンだって庶民を殺したりしていませんでしたしね。


またマクレーンが息子を守る話かと思いきや、実は息子も無敵でした。この親子が強過ぎるので緊張感が全くありません。前半で一度捕虜になるくらいで、後はもう大暴れ。緊張が無いのはまだしも、計画もへったくれもなく、ただただ敵に突っ込むだけですから、興奮もカタルシスもありません。絶体絶命のピンチを知恵と度胸で乗り切る逆転ホームランなぞ、完全に消し去られてしまいました。画面と音は派手な映画でしたが、私はついぞ入り込めず、完全に傍観者になっていました。これは「派手なだけで内容の無い」、よくある馬鹿アクション映画です。話はもっと面白くなりそうなのに、スキップ・ウッズの雑な脚本、ジョン・ムーアの雑な演出が目立つばかり。ジョン・ムーア監督作品は『オーメン』しか観ていませんが、あれも残酷描写を派手にしただけで全く怖くもない、つまらんオカルト映画でした。そういう監督って事なのでしょうか。ダラダラせずに90分強とコンパクトにまとめた功績は認めますけどね。


それと予告編は見せ過ぎです。何しろクライマクスを堂々と見せているのですから。


残念だったのは、過去全作品が画面比2.35:1だったのに対し、こちらは1.85:1になっていた事。ひょっとしたらIMAX上映を意識した画角なのかも知れませんが、映画全体もややちまちました感があったのも事実です。


90分強、映画に全く入り込めなかったけど退屈はしなかったし、1,200円で観られたしで、損した気分はしません。しかし過去の資産を自ら貶めたという点において、怒る人の気持ちも分かるという映画でもありました。


ダイ・ハード/ラスト・デイ
A Good Day to Die Hard

  • 2013年|アメリカ|カラー|97分|画面比:1.85:1
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): Rated R for violence and language.
  • 劇場公開日:2013.2.14.
  • 鑑賞日:2013.2.15.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜3/公開2日目の平日金曜深夜、24時10分からの回は大入りかと思いきや、20人程度の入りとは予想外。
  • 公式サイト:http://www.foxmovies.jp/diehard-lastday/ 予告編、映画紹介、ブログ等。