テイク・シェルター



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

妻子も居て平凡な幸福を送っていた肉体労働者のカーティス(マイケル・シャノン)は、ある日から突然、生々しい悪夢にさいなまれるようになる。嵐が到来して黄色く粘液質の雨が降り、人々が凶暴化して自分や家族に襲い掛かって来るのだ。目覚めても夢の現実感は消えず、夢の中で負った跡も残っている。やがて彼は取り付かれたように地下シェルター作りに没頭するようになる。悪夢は度々訪れ、常軌を逸して来たカーティスの行動は、妻サマンサ(ジェシカ・チャステイン)も含めた家族に影響を及ぼすが。


ドラマ、スリラー、SF、ホラーとジャンル分けが難しい、でもそれらどれもに当てはまるユニークな1本でした。映画を観ながら私が思い出したのはスティーヴン・スピルバーグの名作『未知との遭遇』です。その主人公ロイ(リチャード・ドレイファス)は、空飛ぶ円盤を見て以来、謎のヴィジョンに取り付かれ、それによって家庭が崩壊していきました。それに似たようなドラマかと思ったら、当りでハズレ。でもこれは色々な意味で裏『未知との遭遇』でした。ゆったりとした緊張感が素晴らしい。


肉体労働者である主人公、つまり市井の人がきちんと理性的アプローチを取るものの、もがけばもがく程じわじわと蟻地獄に落ちていく様が怖く、他人事と思えません。この種の映画は主人公に共感出来ず、観客は傍観者になる場合が多いのですが、その点この映画はクリアされています。新鋭ジェフ・ニコルズによる緻密な脚本と演出の冴えには、目を見張らされました。凡庸な映画ならば、押さえつけて来た感情が爆発する終盤のチャリティ食事会場面を山場に持ってきそうなもの。しかもそこで主人公を突き放さず、映画は救済の手を差し伸べます。展開に説得力があるのは、周辺人物の感情の道のりをも描けているからです。ここで私は安心して彼らに感情移入出来ました。だから手に汗握るクライマクスは本当に緊張するし、主人公を応援したくなります。結末は予想出来ても、意味が予想を裏切り、私は大いにこの映画を楽しめました。


主人公を演じたマイケル・シャノンの演技は大袈裟にならず、不安、平常心、焦燥感、恐怖、強迫観念、愛情と、様々な感情の狭間で揺れ動く様を見事に表現していて素晴らしい。しかし私が驚いたのは、妻役ジェシカ・チャステインでした。こんなに上手い女優だったとは!理想的良妻賢母像を絵空事でなく、実在するかのように演じていました。これは難度が相当に高い筈です。2011年の『ツリー・オブ・ライフ』の母親役も良かったですが、こちらはさらに良かったです。


劇場では館数も少なく、ひっそりと公開されましたが、お勧めの傑作です。機会がありましたらお見逃しなきよう。


テイク・シェルター
Take Shelter

  • 2011年 / アメリカ / カラー / 120分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA (USA):Rated R for some language.
  • 劇場公開日:2012.3.24.
  • 鑑賞日時:2012.3.24.
  • 劇場:横浜ブルク13 8番シアター/デジタル上映。公開初日の土曜13時50分からの回は、5割の入り。
  • 公式サイト:http://www.take-shelter-movie.com/ 予告編、映画情報、監督からのメッセージ等。