もうひとりのシェイクスピア



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

16世紀末、エリザベスI世(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)が統治するロンドン。演劇が庶民の間で人気を博していたが、女王の宰相ウィリアム・セシル卿(デヴィッド・シューリス)と息子ロバートは、それを快く思っていなかった。しかし演劇の大衆に及ぼす影響を目の当たりにしたオックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア(リス・エヴァンズ)は、密かに書き溜めていた戯曲の数々を(当時、貴族は戯曲を書くなど考えられない時代だったのだ)、作家ベン・ジョンソン(セバスチャン・アルメストロ)に託す。「お前の作品として上演して欲しい」と。しかしエドワードが書いた『ヘンリー5世』初演が熱狂的に迎えられると、役者ウィリアム・シェイクスピア(レイフ・スポール)が「自分が作者だ!」と名乗り出てしまう。一方、宮廷では年老いた女王の後継者争いの権謀・策謀がきな臭さを増してくるのだが。


シェイクスピア別人説をここまで正面切って映画化したのは珍しい。現在「有力候補」とされる貴族を主人公に据えたスケール感のある時代劇は、権力闘争ものとしても観られるようになっています。評判が良いとは言えない映画だったので期待値を下げて観に行ったら、結構面白かったです。だって監督は『インデペンデンス・デイ』『デイ・アフター・トゥモロー『2012』等の大味監督ローランド・エメリッヒですしね。冒頭はいきなり現代、しかもいきなりシェイクスピア劇の超名優デレク・ジャコビ登場で仰天しましたが、彼の格調高い台詞回しにくらくら来ました。何だ、掴みはOKじゃないですか。


贔屓の「嫌味俳優」リス・エヴァンズも、まさかの格調高いオックスフォード伯役。この人、最低の人間か抜けている人間を演じている時の印象が濃かったので、まさか理知的で威厳のある貴族役とはびっくりしました。しかもカッコ良い。それとレッドグレイヴ母子!現代を名女優ヴァネッサ・レッドグレイヴが演じ、若いときを娘のジョエリー・リチャードソンが演じています。2人とも、いや特に母ヴァネッサは女王としての貫禄も満点でした。


映像も美麗でした。かなりの高画質で粒状性も殆ど無かったのですが、これがフィルム撮影でした。照明も良かった。当時の街並みを再現していたVFXも魅力的に使われています。不潔感たっぷりの街並みなどのセットや、絢爛豪華な、でも実際に「使われている」感のある衣装の数々も見ものとなっています。役者と映像、衣装や美術でかなり私の心を鷲掴みにしてくれました。大体にして題材からして魅力的じゃないですか。そんなこんなで2時間余、楽しめてしまったのです。人物も『エリザベス』『恋におちたシェイクスピア』と重なり、にやにや。いや実際、登場人物が多いので、多少史実を知っているか、前述の映画で各人物を覚えているかで、内容の把握度合が変わってきそうです。


しかし、です。語り口はお世辞にも上手いとは言えません。入れ子状だったり、時制を変えたりする構成は、物語を不必要に複雑にしていて、その割に効果的とは言えませんでした。凝った構成でやりたくなるのでしょうが、この題材に合っていたのかどうか。意欲はあっても、脚本や演出の技術が追い付いていないように思えしました。本来ならばオックスフォード伯の創作への情念も、もっと立体的に描かれてしかるべき。エリザベス女王との過去の関係など、面白い題材を多く盛り込み、しかし後半は陰謀劇主体になってしまい、各要素を薄めてしまうかのように埋没させてしまっています。面白いだけに非常に勿体無い。


エメリッヒ作品常連のハラルド・クローサー&トーマス・ヴァンゲルの音楽は、雰囲気が出ていて中々良かったんじゃないでしょうか。


混乱は見られるものの、シェイクスピアという題材に興味があれば、一見しても良い映画だと思います。


もうひとりのシェイクスピア
Anonymous

  • 2011年 / イギリス、ドイツ / カラー / 130分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):PG12(性的・差別的用語と簡潔な性愛描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA):Rated PG-13 for some violence and sexual content.
  • 劇場公開日:2012.12.22.
  • 鑑賞日時:2012.1.2.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜7/デジタル上映。正月2日目水曜夜23時半からの回は、観客は私を含めて9人
  • 公式サイト:http://shakespeare-movie.com/ 予告編、映画情報、人物相関図、シェイクスピア別人説解説等、読み物が多いのは結構。