レ・ミゼラブル



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

19世紀初頭のフランス。妹の子供の為に1本のパンを盗んだ罪で19年間も服役していたジャン・ヴァルジャン(ヒュー・ジャッックマン)は、出獄後もあちこちで酷い仕打ちを受け、人間不信に陥っていた。そんな彼をミリエル司教は受け入れるが、ヴァルジャンは恩を仇で返すように司教の銀器を盗み、憲兵に捕らえられてしまう。だが司教は自分が渡したものだと言い、ヴァルジャンの人間への憎悪はかき消される。懺悔し、正直者として生きて行こうと誓った彼は、仮釈放の身でありながら行方をくらます。8年後、ヴァルジャンはマドレーヌと名前を変えて市長となり、実業家としても成功し、工場を経営するようになっていた。だが善良で人格家として誉れ高い彼の前に、かつて姿を消した囚人ではないかと疑う警官ジャヴェール(ラッセル・クロウ)が現れる。


劇場では後半は泣いている人多し…というか劇場全体が涙に覆われていました。こういうのも珍しい。それにしても、大画面の劇場で観て正解でした。顔のアップと熱唱の相乗効果には物凄い迫力があったからです。一方で窮屈さを感じたのも確かでしたが。よって舞台と映画の中間のような印象を受けました。夥しい犠牲者が出た後、街中の石畳に血だまりが出来ている場面は強烈ですし、壮大なラストシーンも映画ならではの壮観さですが、まだあちこち映画的効果を狙える場面もあったように思えたのです。でもミュージカル映画好きとしては満足度の高い「観劇」でした。舞台版は未見ですが、楽曲の素晴らしさ、展開の面白さに引き込まれてしまいます。アン・ハサウェイが歌う「夢破れて」も素晴らしかったですが、私が特に感動したのは終盤の「彼を帰して」。それと多くの人が感動したであろう「民衆の歌」。いや、どの曲も良かったのですが、特にこれらが印象に残りました。全体に歌の上手い下手や声量よりも、演技力重視の役者起用だったように思えます。演技が歌の力になっていたのです。例えば前述の「夢破れて」。舞台だったら聴こえないであろう、アン・ハサウェイのかすれて消え入りそうな歌に始まり、心の底から振り絞った熱唱へと転じて行くくだりなど、舞台では難しい映画ならではのミュージカル場面でした。トム・フーパーの演出は非常に力と熱が籠っているものになっていて、だから窮屈さを感じさせるものの、パワーで長丁場を引っ張るスタイルで、これはこれで正解の1つだったと思います。


全体に細かい人物描写やドラマは二の次で、物語を駆け足気味に進めるスタイルが、映画『風と共に去りぬ』を連想させました。ここで映画としてのドラマ描写の薄さと感じるか、オペラやミュージカルならではの穴を観客の想像力で埋めるので問題なしとするか、意見は分かれましょう。私はどちらかというと後者として観られました。2時間半強の長尺作品ですが内容は盛りだくさん。テーマも多岐に渡ります。贖罪、赦し、世代交代…。キリスト教色が濃い内容で、欧米人にとっての神に許される事はも描かれています。そして多くの名も残さぬ人々の犠牲の上で成り立ったフランス革命。だから「民衆の歌」が鳴り響く後半は、こちらも盛り上がります。題名通り「悲惨な人々」が数多く登場する、基本的に悲劇タッチの物語ではありますが、それでも光はどこかにあり、人生は流れ、生は受け継がれていく。そんな大河ドラマとして私は受け止めました。


アン・ハサウェイは出番15分程度なのに、やはり現代最強の女優ですね。「夢破れて」熱唱場面は未だに耳目にこびり付きます。ヘレナ・ボナム・カーターサシャ・バロン・コーエン演ずる(胡散臭い)テナルディエ夫婦は、ティム・バートンスプラッターミュージカル映画の力作『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』共演者同士。ヘンなミンチを作る場面もあって笑いました。忘れてならないエポニーヌ役のサマンサ・バークスも素晴らしい。彼女は舞台版でも同じ役だったそうです。歌唱力は安定していて、でも雨中で歌う「オン・マイ・オウン」は忘れえぬ名場面になっていました。成長したコゼット役アマンダ・サイフリッドは、ソロ場面などありますが、思っていたよりも控え目な役でした。


映画としては若干の問題はあるものの、相対的に満足度は高かったです。是非、大きいスクリーンのある劇場で観られる事をお勧めします。


レ・ミゼラブル
Les Misérables

  • 2012年 / イギリス / カラー / 158分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA (USA):Rated PG-13 for suggestive and sexual material, violence and thematic elements.
  • 劇場公開日:2012.12.21.
  • 鑑賞日時:2012.1.1.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ港北1/デジタル上映。元旦、映画の日、13時00分からの回、388席の劇場は半分以上の入り。真ん中から後ろはほぼ全て埋まっていた。ワーナーマイカルシネマズ港北の1番劇場だったので、ここは和製IMAXとも言われているらしいウルティラ方式。下手なIMAXより大画面で観られたのは良かった。音はIMAXに負けていたけど(^^;
  • 公式サイト:http://lesmiserables-movie.jp/ 予告編、作品情報など。ニュース更新はリンク先のFacebookTwitterに集約されている。