ミッドナイト・イン・パリ
★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。
ハリウッドの売れっ子脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)と観光旅行でパリに来る。脚本ではなく、売れる当ての無い小説を書いて作家になりたいと思っているギルは、すっかりパリの街に魅せらてしまった。ところが深夜、酒の入った状態で独り道に迷ったときに、真夜中12時の鐘と共に1920年代のパリに入り込んでしまう。そこはアーネスト・ヘミングウェイ、F・スコット・フィッツジェラルド(トム・ヒドルストン)、ガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)、パブロ・ピカソ、コール・ポーター、サルヴァドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)、ルイス・ブニュエル、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックら、綺羅星のような数々のアーティスト達がたむろする街でもあったのだ。彼らの世界にすっかり夢中になったギルは、ピカソの愛人でもあったアドリアーナ(マリオン・コティヤール)と親しくなるが。
何気にタイムトラベルものでもある本作は、ファンタスティックでロマンティック。でも現実逃避的で子供っぽい主人公の身勝手さの反映でもあります。だから面白く観られた映画でもありました。まぁウディ・アレン作品ですから、いわゆるデート映画になる訳も無く、辛辣ながらもモロ男性視点の、でも恋の喜びもひとしおのアレン映画。アレンの南欧を舞台にした映画としては、『それでも恋するバルセロナ』よりずっと好きになりました。終幕で登場人物2人が、それぞれ自分がどこで生きるかを選択するくだりがあります。これは少なくとも主人公にとっては成長の証し。結局何も変わらず、そのまま人生は続いていくとした『それでも恋するバルセロナ』に対して、こちらが観ていて幸せな気分になれるのは、そこが大きな違いでした。現実はともかく、少なくともコメディ映画では夢があった方が楽しいですからね。また単なる過去志向の映画か…と思わせて皮肉な場面を用意する終幕を観るにつけ、そこにアレンの本音も見えるのでは、と思いました。コメディタッチであっても辛辣な視点があるのが、如何にもらしいです。
本作は『それでも恋するパリの街』と勝手に邦題を付けたくなる位に、異国の街が魅力的に撮られていました。冒頭のパリのモンタージュ映像はかなり長く時間を取った贅沢な観光案内といった風情で、懐かしくも嬉しい気分になりました。名匠ダリウス・コンジの温かみのある映像も素晴らし。また、過去のパリの場面では登場人物も皆魅力的で良かったです。洒落っ気や男らしさ、夢を抱くアーティスト達の言動と、また彼らを演じるスター達のそっくりさん振りが楽しい。対する現代の場面では、やたら何でも知識人ぶる男役マイケル・シーンが、本当にスノッブで最低で、目の前に居たら殴りたくなるくらいで、これもまた可笑しくも楽しかったのです。オーウェン・ウィルソンは、アレンが若かったら本人が演じていたであろう役。これが良いじゃないですか。アレン本人が演じていたらもっと神経症になりそうですが、ウィルソンの持つ大らかさ、陽気さが、より親近感を抱かせるものとなっています。また女優陣は皆、魅力的に撮られていたと思います。あのガイド役の女性、どこかで観たと思ったら、カーラ・ブルーニだったのですね。他にもマリオン・コティヤール、レア・セドゥーらも良かった。レイチェル・マクアダムス好きとしては、彼女への意地悪目線であってもやっぱりファンですから、ネ。
あぁ楽しかったと言えるアレンらしい小品。94分が軽やかに感じられる佳作でした。
ミッドナイト・イン・パリ
Midnight in Paris