幸せへのキセキ



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

半年前に妻に先立たれたコラムニスト、ベンジャミン・ミー(マット・デイモン)と2人の子供達。問題ばかり起こす長男が中学を退学になったのを機に、気分も一新とばかりに新たな土地で一戸建てを買う。理想の家だと大喜びするも、そこは閉園状態の動物園が付いていた。弟思いの兄(トーマス・ヘイデン・チャーチ)の反対を押し切り、動物園を買ったベンジャミン。全くの新しい体験だが、数名の飼育員達と共に動物園再建を始める。


私の大好きなキャメロン・クロウ脚本&監督の最新作です。彼には『ザ・エージェント』『あの頃ペニー・レインと』という傑作がありますが、『バニラ・スカイ』『エリザベスタウン』と劇映画では凡作が続きました。後者でやや復活の兆しが見られただけに、本来ならば期待したいところです。しかし本作も北米ではまぁまぁの評価しか得られなかったので、期待値を下げての鑑賞となりました。だからでしょうか、結果的にはとても楽しめました。


映画の伝統的な構成を微妙にずらす傾向のあるクロウにしては、伝統的で真っ当な展開でしたが、これも実話が基となっているからでしょう(映画の舞台はアメリカですが、実際にはイギリス)。しかし笑いや選曲、映像等、彼らしい要素がたっぷりあります。クロウ作品らしく適度に感傷、適度にドライで、感動の押し付けが無いのも好ましかった。この内容なら怒涛の涙押し売りも可能だし、邦画だったらそうしていそうなもの。でも私は、題材に対する愛情と距離感を両立させるクロウのスタンスは間違っていないと思います。家族の再生も動物園の再生と共に描かれているけど、妻(子供達にとって母)の喪失を嘆くだけでなく、また忘れるのではなく、過去に思い返し、振り返り、そこに真正面から向き合うというのは、意外にハリウッド映画では珍しいのではないでしょうか。ラストは子供達にとっても原初である場面の再現ともなっていて、ユニーク且つささやかな感動がありました。どうやらクロウは一時期のスランプから脱しつつあるようです。


このところ良い味出してるマット・デイモンは、演技者としてとても安定していますね。普通の悩める父親という感じも良く出ていました。近年はスターのオーラを薄めて市井の人を演じる機会が目立ちますが、そんな役も難なくこなしてしまう所が、彼の演技力の高さを証明しています。飼育係チーフ役のスカーレット・ヨハンソン(ジョハンソン)も、普通の人役は久々じゃないでしょうか。また、『あの頃ペニー・レインと』の主人公の少年パトリック・フュジットが、すっかりムサい青年に成長していてびっくりです。こんな楽しみもある映画でした。


それにしても『幸せへのキセキ』とは退屈で凡庸、且つすぐに忘れ去られてしまう邦題です。いや、鑑賞中ですら思い出せなかった程でした。原題通り『僕たちは動物園を買った』で何故悪いのでしょう。配給会社の邦題に付ける「愛」「幸せ」依存症はいつまで続くのでしょうか。


ともあれ、お勧めの佳作です。


幸せへのキセキ
We Bought a Zoo

  • 2012年 / アメリカ / カラー / 124分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG for language and some thematic elements.
  • 劇場公開日:2012.6.8.
  • 鑑賞日時:2012.6.16.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜Premire/デジタル上映。公開2週目の土曜23時10分からの回、客は私も含めて20人弱とそこそこの入り。
  • 公式サイト:http://www.foxmovies.jp/sk/ 予告編、映画情報、サントラ視聴コーナー等。