推理作家ポー 最期の5日間



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1849年のボルティモアで、母子が密室で惨たらしく殺害される事件が起こった。事件を捜査する警視フィールズ(ルーク・エヴァンス)は、エドガー・アラン・ポージョン・キューザック)の小説『モルグ街の殺人』に酷似しているのに気付き、酔いどれ作家ポーに捜査協力を依頼する。しかし事件は次々起こり、やがて犯人からポーへの挑戦状が届く。それは知恵比べだけではなく、今回の事件について小説化し、新聞に掲載すべし、という要求だった。やがてポーの恋人エミリー(アリス・イヴ)が誘拐されてしまう。彼女の命を助けるには、挑戦を受けて立ち、謎を解明しなくてはならない。必死になってポーは事件を調べ、小説を書き、発表するが。


まず『推理作家ポー 最期の5日間』という邦題に苦言を申し上げたいです。今の世の中、ポーを知らない人が増えたという事でしょうか。わざわざ「推理作家」等と説明しなくてはならんとは、世の中変わったものです。ともあれ、ポーのコピーキャットものというアイディアは歓迎しましょう。このアイディアはすこぶる魅力的です。何しろ彼の短編には名作・傑作揃い。『モルグ街の殺人』『黒猫』『黄金虫』『振り子と陥穽』…。期待せずにいられません。もっとも私がポーを読んだのは30年も前なので、かなり記憶は薄れていますけどね。映画は2時間弱の上映時間、雰囲気ある映像等もあって退屈はしませんでした。しかしながら、あんな小説やこんな小説を何でもっと引用しない!とストレスが溜まる映画でもありました。ジェームズ・マクティーグは『Vフォー・ヴェンデッタ』でも同様でしたが、真面目は良いとして面白味がもっとあれば良いのに、という監督です。折角のジューシーな題材も、目黒の秋刀魚みたいに脂を抜いてしまったようで勿体無い。撮影等技術的には良いのですが、映像と事件を追う事にばかり腐心して、余裕の無い映画になっていました。


ジョン・キューザックは『ブロードウェイと銃弾』同様に大騒ぎする役は下手。好きな役者なのに、見ていてイライラしてしまいます。とは言っても、いつまでも『シュア・シング』じゃないだろうし、やはり演技力不足という事なのでしょう。それとこれは、やはり脚本が不出来でした。史実を微妙になぞりつつ、しかしなぞり方が中途半端で、「あり得たかも知れない真実」ものとしても中途半端でした。題材が良いだけに、物凄く勿体無い映画でした。


残酷描写がデジタル処理されたものが多く、綺麗過ぎました。往年の特殊メイク多用の方が、腐臭漂うポーの小説のどろどろ感が出て良かったのではないでしょうか。例えば、ダリオ・アルジェントジョージ・A・ロメロ監督、トム・サヴィーニがメイク担当だった、ポー原作のオムニバス映画『マスターズ・オブ・ホラー/悪夢の狂宴』のように(あちらも映画の出来は悪かったですが…)。


推理作家ポー 最期の5日間
The Raven

  • 2012年 / アメリカ、ハンガリー、スペイン / カラー / 110分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):R15+(刺激の強い殺傷、肉体損壊、出血飛散の描写がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA(USA):Rated R for bloody violence and grisly images.
  • 劇場公開日:2012.10.12.
  • 鑑賞日時:2012.10.19.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜7/デジタル上映。公開1週間後の金曜22時30分からのミッドナイトショウ、客は私を入れて10人程度。
  • 公式サイト:http://www.movies.co.jp/poe5days/ 予告編、作品情報等、一般的内容。