メランコリア



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

第1部「ジャスティン」:有能な広告プランナーのジャスティン(キルステン・ダンスト)は鬱病のようだ。マイケル(アレキサンダー・スカルスガルド)との結婚式を抜け出したり、式の最中に入浴したり、心ここにあらずの様子。姉クレア(C・ゲンズブール)は何とか尻拭いをしようとするものの、ジャスティンは全てを壊してしまう。
第2部「クレア」:惑星メランコリアが急速に地球に接近していた。クレアは幼い息子を思って恐怖に震えるが、富豪の夫ジョン(キーファー・サザーランド)は大丈夫だと、取り成す。一方、あれから酷い鬱状態となってクレアの屋敷に連れてこられたジャスティンは、惑星の接近と共に徐々に生気を得て行く。


この手のアートフィルムは、一昔前は単館シアターでの上映が常でしたが、今やこうやって郊外のシネコンでも上映してくれます。有難いけれどもペイ出来ているのでしょうか?ラース・フォン・トリアー作品は、TVで観た処女作『エレメント・オブ・クライム』以来の20年振り、しかも2作目です。話題になった『奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドッグヴィル』『アンチクライスト』、どれも面白でしたが見逃していました。こちらは海外でも話題を呼んでいたので期待していました。

冒頭10分、スクリーン上で繰り広げられるのは、超スローモーションによる絵画のような映像の数々と、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』が織り成す世界破滅の恍惚。ポスターにもなっているジョン・エヴァレット・ミレイの『オフィーリア』や、ブリューゲルの『雪中の狩人』等、絵画からの引用も美しい。このシークェンスは素晴らしい映像と音響の体験となっており、映画最大の見所となっています。しかしここでは巨大な惑星と地球の激突も描かれており、破滅が避けられないものと提示されています。


この壮大で幻想的な堂々たる映像音響絵巻の後、トリアーは、全編に渡って手持ちぐらぐら接写主体のHD映像で、痛いドラマを描き出します。主人公は、緩やかで怠惰な自己破壊衝動に駆られるジャスティンと、ごく普通の女性であるクレアの姉妹です。この2人の関係は、惑星接近に伴って姉妹の関係が少しずつ変わって行きます。


大勢が集う結婚式を描いた第1部は、ゆったりと各人物を描いていきます。キャストも、両親にシャーロット・ランプリングジョン・ハートジャスティンの上司役にステラン・スカルスガルド(親子共演ですね)、ウド・キア等、厚みのある役者を揃えており、時間をかけてたっぷりと描いています。本編に入る前に結婚式をじっくり描く方法は、名作『ディア・ハンター』を想起させました。後から分かりますが、映画の半分を占めるこの助走は必要な時間なのです。第2部はクレアの住む大邸宅を舞台にして、限られた人数で姉妹の感情を見せていきます。人は自己の能力が及ばない異常現象を目の前にして、どのような行動を取るのか。ジャスティンは全てを受け入れるかのように穏やかな救いを見つけ、解放的になります。深夜の森の中で、全裸でメランコリアの光を浴びる映像が美しい。一方、普通の人であるクレアは恐怖に突き動かされてしまいます。キルステン・ダンストは従来のイメージとがらり変わっての静かな熱演。鬱々とした前半から徐々に変わって行く様を、繊細且つ堂々たる演技で見せてくれました。対照的に姉役シャルロット・ゲンズブールは、ごく一般人が取るであろう行動や心理を見せてくれ、ダンストに比べて地味な役ではあるものの、作品の柱の1つとなっています。世界の終末という大スケールの設定でも、描かれるのは極個人の感情。近年流行の破滅SFもトリアーが撮るとこうなるのか、という意味でも面白かったです。また何度か挿入される姉妹の乗馬場面を空撮で捉えた美しいショットも躍動感があり、閉所恐怖症的ドラマに対して効果的でした。


しかしこれは劇場で観る映画。TVの小画面では、弛緩ぎりぎりのドラマはとても持たないでしょう。綱渡りのように際どい映画ですが、ラストは朗々と響く重低音と、ワーグーナーが鳴り響く中での甘美で残酷な破滅。これで全てが許せてしまいます。シルエットに浮かぶ対照的な人影が強烈な印象を残しました。



メランコリア
Melancholia

  • 2011年|デンマークスウェーデン、フランス、ドイツ|カラー|136分|画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA (USA):Rated R for some graphic nudity,sexual content and language.
  • 劇場公開日:2012.2.17.
  • 鑑賞日時:2012.2.24.
  • 劇場:TOHOシネマズららぽーと横浜7/デジタル上映。公開1週目の金曜21時05分からの回10人の入り。
  • 公式サイト:http://melancholia.jp/ 予告編やサイトの背景も冒頭の場面をフィーチャーした作り。