トイ・ストーリー3


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

おもちゃたちの持ち主であるアンディも17歳。今やおもちゃで遊ぶこともなくなり、大学入学の為の引っ越し準備に追われていた。一番のお気に入りとしてウッディ(声:トム・ハンクス)だけは大学に持って行かれることになり、バズ・ライトイヤー(声:ティム・アレン)やジェシー(声:ジョーン・キューザック)ら他のおもちゃたちは屋根裏にしまわれることになる。しかし手違いで捨てられそうになったおもちゃたちは、自ら保育園で小さな子供たちに遊ばれることを決断するが、そこは期待に反しておもちゃにとっての地獄とでも呼ぶべき、小さな猛獣たちが大暴れする場所だった。仲間たちの危機を知ったウッディは、救出の為に保育園へと向かう。


軽さと不真面目さを勘違いしている所ジョージの声なぞ聞きたくなかったので、字幕版を観に行きました。しかし近所のシネコンでは字幕版は夜以降の回しか上映していないので、やむなく都心まで出掛けることに。ピクサー作品(に限らないのですが)を巡るこの状況は、何とか改善してもらいたいものです。字幕版でスターたちの声を聞きたいという層は、結構居ると思うのですけれども。実際に英語音声・日本語字幕版を観ると、やはり僕にとっての『トイ・ストーリー』シリーズは、オリジナル・キャストの声以外に考えられません。トム・ハンクスティム・アレンジョーン・キューザックドン・リックルズ(Mr.ポテトヘッド)、ウォーレス・ショーン(レックス)、ジョン・ラッツェンバーガー(ハム)、R・リー・アーメイ(軍曹)…。久々に聞く彼らの声が心地良い。11年振りの続編は紆余曲折あったものの、結局無事にピクサーによる製作となってめでたいことです。


さらにめでたいことがあります。1作目よりも2作目の出来が良いのはたまにありますが、その2作目より3作目の出来が良いとなると、これは映画史におけるちょっとした奇跡です。いや、ひょっとしたらピクサー作品の中でも1番の傑作かも知れません。しかもシリーズ生みの親であるジョン・ラセターが、今回は初めて監督から製作に回り、代わって単独監督作品初のリー・アンクリッチへと交代。それにも関わらずここまでの完成度を見せていることに、ピクサーの人材厚みに改めて感嘆してしまいます。内容もりだくさんであっても混乱せず、物語やテーマをきちんと物語る技術は、しっかりと若手たちに継承されているのです。提携しているスタジオジブリとの差はこれではないでしょうか。


おもちゃたちの危機また危機の大アクション大冒険にスリルと笑いをふんだんにまぶしているのはもちろんのこと、それらが物語と有機的に結びつき合っているのが素晴らしい。アクションは単なる見せ場ではなく、物語や登場人物たちを前進させるものとなっているのです。またシリーズを見続けている観客に対してのサーヴィスも怠りなく、細かいギャグや大爆笑の場面なども豊富。おもちゃたちにとっての幸せとな何かという、一般人には余り関係の無いように思えるアイデンティティーの問題を描きながら、その裏に隠されたテーマは「人間の成長」という隠し玉も巧みです。子供から大人へと成長して行くに従って純粋さが失われていく悲しみと、その純粋さの継承が打ち出されており、つまりは人生そのもの描かれている。これは子供よりも大人が感動する映画なのです。そのような深みがドラマに与えられた反面、無邪気に楽しめない部分も目立つのは、痛し痒しでしょう。脇役のおもちゃたちの幾体かは、捨てられたり(つまり死んでしまった)もらわれたりしたらしく、最初から登場しません。世知辛さ、現実の隙間風が吹く映画でもあるのです。


またピクサー作品に共通しているのですが、全体的に作り込み過ぎの感もあります。だからこその隙の少ない完成度とも言えるのですが、時にもう少し伸びやかな作風の長編作品も観てみたい。その意味で、3Dを効果的に使われた併映の短編作品『デイ&ナイト』は愉快な佳作で、こちらも見ものとなっています。


吹替え陣はレギュラーに関しては言うことがありません。彼らの芸達者振りを大いに楽しませてもらいました。新登場キャラで大笑いだったのが、マイケル・キートン演じるケント。バービー人形の添え物キャラということで、その薄っぺらさ、底の浅さが物凄い。これもアニメならでは、おもちゃならではのカリカチュアライズでした。またティモシー・ダルトンの美声もお聴き逃しなく。


ピクサー長編作品では、前作『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)に続いての3D採用となります。ことさら立体感を強調しなくとも、その奥行き感でもって、おもちゃたちの見た目世界がさりげなく効果的に表現されており、3D映画の意味が十分にあります。単に流行を追っているだけで意味の無い3D作品が見受けられる中、さすがピクサーとここでも感心しました。


トイ・ストーリー3
Toy Story 3

  • 2010年 / アメリカ / カラー / 103分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):G
  • 劇場公開日:2010.7.10.
  • 鑑賞日時:2010.7.16.
  • 劇場:TOHOシネマズ六本木1/ドルビーデジタルでの上映。平日金曜の朝10時30分からの回、164席の劇場は20人弱の入り。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/toy3/ 唐沢×所対談動画、予告編、キャスト&スタッフ紹介など。