サバイバル・オブ・ザ・デッド


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

世界規模で次々と死者が蘇り、人肉を食らうゾンビとなって人々を襲うようになってから数週間後。とある離島ではゾンビを殲滅しようと主張する一家の家長オフリン(ケネス・ウェルシュ)と、ゾンビを飼い馴らそうと主張する一家の家長マルドゥーン(リチャード・フィッツパトリック)が対立していた。オフリンは仲間たちと共に追放されるものの、今や野盗と化したサージ(アラン・ヴァン・スプラング)ら元州兵らと出会い、密かに島に戻り、マルドゥーンへの復讐を企むが。


ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロの最新作は、前作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(2007)の続編的位置付けという、ロメロ初の続編ゾンビ映画。主観キャメラ(POV)によるドキュメンタリ・タッチの前作に対し、こちらはオーソドックスな劇映画として製作されています。もっとも低予算で小規模な製作は前作同様。世界規模の終末世界なのに、田舎町での老人同士の争いをメインにして、少々の西部劇タッチで描いている映画なのですから。クライマクスの対立する人間同士対ゾンビの群れという三つ巴の戦闘も、人数的には大したことがありません。ゾンビはせいぜい20-30人程度なのは物足りなく感じます。人体破壊描写は荒唐無稽なものも含めてバラエティに富んでいますが、CGによる特撮はいささかチャチなもの。クライマクスでは『死霊のえじき』(1985)の再現とも言える人体真っ二つも登場しますが、映画全体の人体破壊描写の殆どが頭部撃ち抜きで、いささか単調に感じました。


それでも前作はいささかかったるく、POV映画に付きまとう不自然な映像や設定などが気になったので、僕はこちらの方がリラックスして楽しめました。元々テンポがゆったりした作風の監督ですが、前作に比してテンポもこちらの方が良いし、無駄な場面も殆どなく、飽きさせません。相変わらずの現代批判・人間批判が手厳しく、社会性や風刺性を盛り込んでいる含蓄のある内容なのもロメロらしい。この頑固なまでに首尾一貫した映画製作の姿勢は、宮崎駿と双璧なのではないか、と思ってしまいました。しかしながら若干のユーモアはあるものの、全体的に生真面目過ぎて娯楽ホラーとしての面白みに欠けてしまっています。


それはホラー映画としては致命的な欠点を持っているからです。つまり全く怖くないのです。その意味では、ロメロのゾンビ映画はホラーとしての役目はもう終わってしまったのではないか。その存在意義は、風刺映画としてのものだけになっているのではないか。そんなことを考えてしまいました。いえ、ロメロならではの、のろのろ動くゾンビはもう古い、昨今流行りの猛ダッシュ全力疾走ゾンビにしろ、というのではありません。世界を壊滅に追いやった生ける死者たちと、愚かな生者を描いた前作に対し、さらに一歩進めて生者と死者の境を曖昧とした野心的な本作。それでものろのろゾンビが人間を食い散らかすだけでは、既に見慣れて怖くないのです。単なる人体破壊ショーには恐怖はありません。その点で、ホラーではなく風刺映画との存在において意義があるのだと、思いました。


『死者のサバイバル』という矛盾した題名が、今後のシリーズの行方を案じさせ、さらに風刺度を強めるであろう続編を予感させました。


サバイバル・オブ・ザ・デッド
Survival of the Dead

  • 2009年 / アメリカ、カナダ / カラー / 90分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):R18+
  • MPAA(USA):Rated R for strong zombie violence/gore, language and brief sexuality.
  • 劇場公開日:2010.6.12.
  • 鑑賞日時:2010.7.2.
  • 劇場:TOHOシネマズららぽーと横浜9/ドルビーデジタルでの上映。金曜21時15分からの回、117席の劇場は11人の入り。
  • 公式サイト:http://www.survivalofthedead.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、Twitter(_OfTheDead)など。