アイアンマン2


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

スターク・インダストリーのCEO兼天才発明家、セレブリティでもあるアイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニーJr)は、アイアンマンは兵器であるとするアメリカ政府にパワードスーツの提出を求められていた。だが皮肉にも、自らの生命維持装置でありアイアンマンのパワーの源でもあるアーク・リアクターによって、彼の身体は蝕まれつつあったのだ。一方、ロシア人であるイワン・ヴァンコ(ミッキー・ローク)は、アーク・リアクターを使ったパワード・スーツを使ってトニーを付け狙う。イワンは何故トニー・スタークを憎むのか。さらにトニーのライヴァル社長ハマー(サム・ロックウェル)もまた、密かに陰謀を推し進めていた。


まずはダウニー・Jrが快演するトニー・スタークとの再会を喜びましょう。周囲の迷惑を顧みずに衝動的、身勝手でナルシスティックな不良中年を足取り軽く演じる彼は、相変わらず楽しい見ものになっています。真面目と不真面目が同居し、肩の凝らない大人の鑑賞に耐え得る娯楽コミック映画に成り得ているのは、トニー・スターク…いや、ダウニー・Jrによるところが大きい。若い時から何を考えているのか分からない役を好演していたダウニー・Jrの、これが素ではないかと思わせる間違いなく最大の当たり役です。


引き続きトニーの忠実なる秘書、転じて大出世を果たすポッツ役を演じるグウィネス・パルトロウは、前作ほどの「魅せ場」が少なくなっています。しかしこういうシリーズでは常連組の存在が観客に安心感を与えるもの。パルトロウは若い時にあったどこかギスギスした感じもすっかり和らぎ、軽いダウニー・Jrに対する良い意味でも大人の受けの演技が頼もしい。常連という意味ではトニーの親友である軍人ローディ役テレンス・ハワードの降板は残念でした。代役のドン・チードルは幅広い演技力を持つ素晴らしい役者ですし、個人的にも好きなのですが、庶民的な顔立ちがどうにもロボット・スーツに似合わない。その点ではテレンス・ハワードの方が役に似合っていました。今更そんなことを言っても仕方ありませんが、ともあれ前作の台詞で匂わせていたように、本作ではローディもまた大活躍して楽しませてくれます。


その他の脇役では、トニーのボディガード兼運転手ハッピー役のジョン・ファヴロー(本作の監督でもあります)、前作のエンドクレジット後に引き続き出演のサミュエル・L・ジャクソンも常連組です。ジャクソンは出るだけで貫禄と怪しさを醸し出してさすがと思わせてくれました。


新参組を見てみましょう。サム・ロックウェルは得意の役どころ。嫌らしく且つ必死でもある嫌らしい演技が観ていて笑えます。こういう役が本当に上手い。悪役のミッキー・ロークは期待通りで、不気味で危険な匂いのする、でも人間臭い男を好演していました。しかし彼ら中堅・ヴェテランよりも設け役なのは、スカーレット・ヨハンソンです。語学堪能で優秀な、しかも武術も使えるというスーパー社員。その正体はさて…という美味しい役で、兎に角カッコ良い。後半の大立ち回りも編集の力を借りつつも魅せてくれました。


かように豪華なキャストゆえ、『スパイダーマン3』(2007)のように、内容盛りだくさん過ぎてまとまりのない映画になってしまうのではないか、と事前の不安がありました。しかし監督ジョン・ファヴロー自身がそうはしないよと言っていたように、登場人物の見せ場作りばかりに腐心することなく、きちんと物語やトニーの心理にフォーカスを当てようとしていました。脚本は役者としてちょくちょく見ることのあるジャスティン・セロー。大作の脚本は『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)に続いて2本目のようですが、手堅く書いています。面白いのはアイアンマンが活躍するアクション場面が殆どないところ。基本的にドラマや陰謀で物語を進めて行き、飽きさせません。そして終幕には待っていましたとばかりに前作の終盤の物足りなさ、つまりアイアンマンがパワー全開で戦えないという不満を解消すべく、相棒ウォーマシンと共闘しながらの大アクション連打で盛り上げます。


このように総体的に楽しめるものの、同時に物足りなさも付きまといます。ギャグが減ったこと。前作にあったパワード・スーツの手作り場面が激減したこと。敵役イワンとの対決場面が短かったこと。メッセージ性が希薄になったこと。これらが原因として挙げられます。特にメッセージ性については、お気楽娯楽アクション映画の範疇という前提があるものの、意外に真摯なだけあって残念でした。自らの作り出した兵器がテロリストたちの手に渡っていたというのは、現在のアメリカの現実そのものなのですから。今回は亡き父との和解というテーマが一応あるものの、兵器の現実に関する一歩進めた考察と絡ませることが出来なかったものか、とも思いました。


ジョン・ファヴローの演出は見せ場も押さえることが出来る、全体に手堅いもの。但しギャグの切れが今一つなところも散見されました。


アイアンマン2
Iron Man 2

  • 2010年 / アメリカ / カラー / 124分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for sequences of intense sci-fi action and violence, and some language.
  • 劇場公開日:2010.6.11.
  • 鑑賞日時:2010.7.11.
  • 劇場:TOHOシネマズららぽーと横浜Premier/ドルビーデジタルでの上映。日曜朝いち9時30分からの回、99席の劇場は約20人の入り。
  • 公式サイト:http://www.ironman2.jp/ 予告編、サポーターの中村獅童コメント動画、キャスト&スタッフ紹介、壁紙、ギャラリーなど。