シャーロック・ホームズ



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

19世紀末のロンドン。女性ばかりが狙われる連続殺人事件の捜査に、私立探偵シャーロック・ホームズロバート・ダウニー・Jr)と相棒ジョン・ワトソンジュード・ロウ)が協力。2人はレストレード警部(エディ・マーサン)と共に、事件の首謀者であるブラックウッド卿(マーク・ストロング)を逮捕する。黒魔術使いを自称する卿は自らの復活を宣言して処刑されるが、数日後に墓は破壊され、卿の死体は消えていた。一方、ホームズの好敵手であり、彼が唯一心を許したアイリーン・アドラー(レイチェル・マクアダムス)が、数年振りに姿を現す。


サー・アーサー・コナン・ドイルが創造した世界的名探偵が活躍する小説に夢中になった方も多いことでしょう。かく言う僕もその1人です。冷静沈着で合理的な推理と胸のすくような活躍に心踊らされました。とは言え、そのホームズ像は奇人変人そのもので、余りお近づきになりたくない類の人物でもあります。アヘン中毒で室内で銃をぶっ放し、深夜にヴァイオリンを弾くというはた迷惑な男なのですから。そういったホームズ像を取り入れているのが、意外にもホームズ・ファンにとって本作が入り込みやすくなっている理由でしょう。何しろ予告編をタイトル無しの状態で観たとしたら、まず間違いなくホームズが主人公とな思えない派手なアクション映画なのですから。しかもホームズを演じるのが、原作にあるような痩身長躯、鋭い眼光の持ち主とは対称的で、しかもアメリカ人のロバート・ダウニー・Jrです。ハンサムでも愛嬌のある小柄なダウニー・Jrが何でホームズを演じるの、と言いたくなりますが、これが似合っていました。奇行が目立つ頭脳明晰な皮肉屋ですが嫌味が無いし、細かいことでもいちいち推理を述べるのも原作に近いもの。頭も口も良く動くダウニー・ホームズは、原作以上に身体も動きます。小柄な体躯を生かした切れ味あるアクションを連発して、並み居る敵をノックアウト。原作のホームズも武術の達人という設定でしたから、これもまた悪くありません。


軽めのハンサム・ホームズには軽めのハンサム・ワトソンが似合うとばかり、ジュード・ロウ演ずる元軍医もよく動きます。推理能力ではホームズに劣るものの、ホームズが見下している感じがないので、頭脳も悪くない男としてワトソンは作られています。ホームズはメアリーとの結婚で下宿を出て行くワトソンに対して思うところがあるらしく、少々子供っぽい言動を2人見せています。ここが相棒映画としても成立している理由で、婚約者にも自分にもちょっかい出すホームズにいささかウンザリ気味のワトソンというのもあって、ホームズとワトソンが主従関係に見えないのも宜しい。原作と違って身長はホームズよりワトソンの方が背が高くなっていますが、これも気になりません。


2人が動くならばとばかり、アイリーン・アドラー役は利発なレイチェル・マクアダムスが起用されています。こうして頭も口も身体もよく動く3人のスターを起用したことにより、映画は派手なアクションと爆発が連発する娯楽大作になっています。この派手振りはプロデューサーのジョエル・シルヴァーの趣味も多分にあるのでしょう。ガイ・リッチーらしくやや神経症気味の編集とアップテンポな展開もあって、映画は猛スピードで駆け抜けようとします。観ている間は退屈しないし、迫力ある特撮や当時の街を再現した映像など見所は多い。しかし思っていたよりも話が弾まず、特にスリリングと感じる瞬間もありませんでした。これはホームズがいちいち披露する推理と、アクション、サスペンスがどれも同じようにせわしなくがちゃがちゃと語られている為に、全てが平板になってしまったからです。引き伸ばしやじらしなど、緩急を使った手際が欲しかったところですが、それをガイ・リッチーに求めるのは違うのかも知れません。それでも内容に応じて話法を使い分けるべきでした。


マーク・ストロングは如何にも悪の元締めという演技を見せてくれますが、脚本のせいか悪の人物造形が立体感に乏しく、類型的な役に留まっています。ハンス・ジマーの音楽はどことなくエスニックで、ヴィクトリア朝の混沌とした雰囲気を出していて面白いのですが、過剰でうるさい。これはジマーだけではなく、音楽の付け方を要求するリッチーの責任でもあります。


贔屓の役者たちがずらり勢揃いしていたので、その面子を眺めるだけでも楽しめましたが、内容は今一つ。しかしラストでは「あの方」が続編で活躍してくれそうな期待を忍ばせ、1度観れば十分と思いつつも、来年製作予定の次回作を気楽に待って楽しむことにしましょうか。


シャーロック・ホームズ
Sherlock Holmes

  • 2009年 / イギリス、オーストラリア、アメリカ / カラー / 129分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sequences of violence and action, some startling images and a scene of suggestive material.
  • 劇場公開日:2010.3.12.
  • 鑑賞日時:2010.3.14.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン5/ドルビーデジタルでの上映。公開3日目の日曜10時10分からの回、174席の劇場は30人弱の入り。
  • 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/sherlock/ 予告編&TVCF、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、壁紙など。