コララインとボタンの魔女 3D



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

少女コラライン(声:ダコタ・ファニング)とその一家は、田舎町にある大きくて古い家に引っ越して来た。両親(声:テリー・ハッチャー、ジョン・ホッジマン)は自宅勤務だが、1日中パソコンを相手にしていて、こちらに構ってくれないのがコララインの不満の種だ。ある日、コララインがレンガで塞がれている筈のドアを開けると、夜中になるとトンネルが開き、向こうの世界には優しく自分に構ってくれるママとパパがいた。ただし、目の代わりにボタンがあるママとパパだが。初めは異世界を楽しんでいたコララインだったが、この世界には秘密があったのだ。


ニール・ゲイマン原作の人形アニメーション3D映画は、内容自体は左程目新しいものはありません。ドアの向こうの楽しい異世界、偽者の家族、恐ろしい魔女の存在と、1つ1つの題材は使い古されたものです。しかしいささかグロテスクなユーモアと道具立て、物語の根底にある恐怖、そして素晴らしいヴィジュアル等によって、この映画は一風変わった肌合いの、しかも上質のファンタジー映画になっています。


映画の冒頭は、ボタン目の人形が針金のような手で再生されていく様子を、緻密かつ繊細な動きで表現しています。場面の意味は終盤で判明するのですが、ここで映画の基調が打ち出されました。傑作人形アニメ映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)の監督としても知られるヘンリー・セリックは、この場面での人形が人形を作る様子を緻密に描写することによって、自らの人形アニメーションが作り出す人工世界への偏愛を吐露しています。そしてセリックは、登場する2つの世界を徹底的に様式化しました。現実世界は退屈なモノトーン、ドアの向こうはカラフルな色使い。向こうの世界は夜(コララインが眠ってからの夢の中、という設定なのです)なので、鮮やかな配色が楽しめます。また、極端でユーモラスなルックスの隣人たちのデザインも、寓話としての色彩を濃いものにしています。セリック作品らしいのは、複雑なキャメラワークと緻密且つ大胆な動きのアニメートでしょうか。CGも要所で使用していますが、手作り感覚は失われていません。


極端で個性豊かな登場人物、カラフルな色彩、目を奪うようなアニメーション、ブラック・ユーモア、テンポの良い語り口、スリリングな展開。これに飛躍と省略、そして緻密さのコンビネーションが上手い語り口によって、アニメ映画ならではの世界を作り出しています。「やっぱりお家が一番」「何でも代償はあるのだよ」といったテーマを、分かりやすく且つ大人も楽しめるような味わいに仕上げたところに、この作品の面白さがあるように思いました。


さて日本での劇場公開は全て3D上映とのこと。効果は前に飛び出してくる演出を要所で使いつつ、細部まで作りこまれたミニチュアセットの奥行き間も非常に良く出ていて、映画への没入感を促してくれます。恐らくBlu-ray Discなどは2D版がリリースされるのでしょうが、可能ならば3D鑑賞がお薦めの映画です。


コララインとボタンの魔女 3D
Coraline

  • 2009年 / アメリカ / カラー / 100分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG for thematic elements, scary images, some language and suggestive humor.
  • 劇場公開日:2010.2.19.
  • 鑑賞日時:2010.2.20.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘9/ドルビーデジタルでの上映、日本語吹替え版。土曜13時55分からの回、240席の劇場は子連れが目立つほぼ満席。
  • 公式サイト:http://coraline.gaga.ne.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、壁紙、ゲームなど。