ラブリーボーン



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1973年12月6日、ペンシルヴァニア州の田舎町。優しくも仲睦まじい両親(マーク・ウォールバーグレイチェル・ワイズ)、妹弟と仲良く暮らしていた14歳の少女スージー・サーモン(シアーシャ・ローナン)は、突如命を奪われてしまう。隣人のミスター・ハーヴィ(スタンリー・トゥッチ)が殺人鬼だったのだ。スージーは天国と地上にある狭間の世界から、自分が居なくなった一家が悲しみから崩壊していくのを目の当たりにする。自分を殺した男はのうのうと生きているにも関わらず。しかしスージーは何も出来なかった。ただ、地上での時の流れを眺めるしか無かったのだ。


アリス・シーボルトのベストセラー小説『ラブリー・ボーン』(未読)を映画化したのはピーター・ジャクソン。脚本はジャクソンと、『ロード・オブ・ザ・リング3部作』でお馴染みのジャクソンのパートナーたち、フィリッパ・ボウエンフラン・ウォルシュらの共同作業です。複雑な『指輪物語』を上手く映画版に脚色したチームだけに、脚本への期待は大きかった。が、出来は芳しくありません。全体にまとまりと深みに欠け、1場面ごとに違う映画を観ているかのようでした。ある日突然、我が子を失うという両親が直面する、恐ろしくも悲しい場面があれば、少々やり過ぎの感があるスーザン・サランドン演ずる祖母のコメディ調場面があります。観た事もないような壮大な幻想場面もあれば、ひらひらした衣装を着た少女たちがきらきらした世界で戯れるという、観ていて赤面する常套場面があります。起伏だけではなく出来不出来が激しいのです。


本来ならば、死んだ少女の視点でこれら全てを描く事によって1本の幹が通り、種種雑多な場面を紡ぎ合わせられる筈です。しかしスージーが登場しない場面も多く、彼女の視点なのかどうなのか、観ていてよく分からない場合が多い。また、残された家族の悲しみについても表層的な描写に留まり、彼らのドラマは書割のように背景に留められています。観ているこちらの胸に迫るものがありませんでした。脚色、あるいは編集の不備を多々感じます。


かように不出来なのですが、どうしても嫌いになれない映画でした。幾ら悲しい出来事があっても、時間が心を癒してくれる。時間が痛みを忘れさせ、また忘れることによって人は前に進む事が出来る。生きて行くのに勇気付けられる、そんなメッセージが明確だからです。また、スージーがこの世に未練を残したという事も、少女らしく可愛く、納得出来るものでした。だからこそ、家族の崩壊・離散、再生のドラマが浅薄だし、肝心のテーマや物語を語るのに失敗したのが惜しまれます。


映画には素晴らしい瞬間が幾つか作り上げられています。巨大なボトルシップが次々と流れ着き、岩だらけの岸に激突して瓶が大破していく壮大な場面。あるいは、スージーの妹がミスター・ハーヴィを犯人と疑い、彼が不在時にその自宅に忍び込み、殺人の証拠を探そうとする手に汗握る場面。但しこれらの場面の完成度は、映画全体の完成度に貢献していません。


少女の多感な時期と、身体はそのままでも精神的成長を感じさせる時期を、映画の流れを引き寄せようとするように演じたシアーシャ・ローナン。また、珍しい役柄を演じたスタンリー・トゥッチの好演。この2人の演技は劇場で観る価値があります。


ラブリーボーン
The Lovely Bones

  • 2009年 / アメリカ、イギリス、ニュージーランド / カラー / 135分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for mature thematic material involving disturbing violent content and images, and some language.
  • 劇場公開日:2010.1.29.
  • 鑑賞日時:2010.2.12.
  • 劇場:TOHOシネマズららぽーと横浜4/ドルビーデジタルでの上映。飛び石連休の谷間、金曜12時15分からの回、113席の劇場は35人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.lovelyb.jp/ トップはあっさり表示されるも、中が重すぎて表示されず。最近はこんなサイトが目立つ。