キャピタリズム マネーは踊る



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2008年9月にサブプライム・ローン問題が発覚し、証券会社リーマン・ブラザーズが破綻した。これをきっかけに、世界金融危機が発生し、世界的大不況となった。アメリカ国内では一般市民が職や自宅を失う一方、サブプライム・ローンで暴利を貪って来た金融機関の中には、国民の血税を莫大につぎ込み救済されたところもあった。また、ウォール街では莫大なボーナスを手に入れる人も多かった。アメリカの資本主義はなぜこうなったのか。マイケル・ムーアの長編ドキュメンタリ映画。


さすがのムーアも疲れているな、と観ながら思いました。本作にもある通り、ムーア自身が有名になり過ぎて取材相手の警戒心を招いているからでしょう。本作においては、突撃取材の切れが無くなり、ハプニングも殆ど収録されていません。私がムーア作品に望むのは、突撃取材と彼ならではの意見表明、それにユーモアです。しかしキリスト教が強いアメリカで公開される前提の映画にしては、いささか不謹慎なキリストの扱いも、やや上滑り気味。終盤の市民逮捕や犯行現場テープなども、単に付け足し的パフォーマンスに見えてしまいます。さすがのムーアも勤続疲労気味。終幕の告白も少々痛々しい。大衆よ行動を起こせ、自分1人ではもう限界だ、と。


ムーアのドキュメンタリに対する批判で、視点が偏り過ぎている、というものがあります。それもムーア作品ならでは。ドキュメンタリとは、そもそも客観的なものではありません。ドキュメンタリとは、人が介在することで全てが客観報道とはならないのですから。そもそもその事象を取り上げるという時点で、何らかの意図が入っている。言い換えれば、ドキュメンタリとは、個人のフィルタを通して描かれた事象に対し、観客がどう考えるべきかが問われるのです。


国民の20パーセントが富の半分を所有しているというアメリカ。何でこんなになってしまったのか、というムーアの怒りが映画の基調となっています。何があっても神が軌道修正してくれるという考えが根底にある、「カトリック教的資本主義」とも呼ぶべきブッシュ政権での資本主義政策の数々を、映画は次々と暴き出します。それが行き過ぎると格差と不公平を生むだけだと、ムーアは主張しています。なるほど、偏ってはいますが、中々説得力のあるネタが多い。


アメリカ政府はウォール街の意向が強く反映されているとは聞いていましたが、政府が事実上ゴールドマン・サックス幹部らに乗っ取られているのには驚きでした。また、行き過ぎた規制緩和の弊害によって、民営化された少年少女更正施設が利益追求の為に、過剰に矯正期間を延期させたり、航空会社のパイロットの年収100万円少々であったり、描かれる事実もびっくりです。こういった情報は中々日本では知り得ないものなので、その意味でも映画を観て損はありません。


今や国民皆保険制度導入で躓いているバラク・オバマ政権誕生時への過剰な期待や、日本を理想的な資本主義社会とする視点には、少々気恥ずかしいところもあります。しかしこういったストレートな物言いもムーア印。


映画のテーマの1つは、ムーアの過去の作品と同様、「恐怖」。国民を怯えさせることにより、意のままの方向に導き、こんな国にしたのだ、と。同時に愛国心もムーア作品のトレードマーク。いくら厳しいこと、キツいことを言っても、「アメリカは本来こんな国ではないはず。一体どこへ行ってしまったんだ」という感情が明らかです。住民や労働者による抗議活動に望みを見出しているのですから。


尚、原題にある副題の『ある愛の物語』とは、ムーアによると「自分たちのお金を愛する金持ちたちの映画」の意味だそうです。ムーアの「愛国心の物語」の意味かと思っていたら、随分と皮肉な意味が込められているのでした。


キャピタリズム マネーは踊る
Capitalism: A Love Story

  • 2009年 / アメリカ / カラー / 127分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated R for some language.
  • 劇場公開日:限定公開 2009.12.5.、拡大公開 2010.1.9.
  • 鑑賞日時:2010.1.11.
  • 劇場:TOHOシネマズ横浜ららぽーと8/ドルビーデジタルでの上映。成人の日である月曜朝10時15分からの回、211席の劇場は3割程度の入り。
  • 公式サイト:http://michael-moore-newfilm.jp/http://www.capitalism.jp/)光環境でもやたらと読み込みが遅く、うんざりして内容未確認。