アバター



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

西暦2154年。下半身不随の元海兵隊員ジェイク(サム・ワーシントン)は、衛星パンドラの貴重な鉱物資源を手に入れるためのアバター・プロジェクトにスカウトされる。その任務とは、原住民ナヴィ族と人間のDNAを掛け合わせて造られたアバターと精神的リンクを行い、アバターを遠隔操作するによってナヴィ族との交流を図る、というものだった。また、上官クオリッチ大佐(スティーヴン・ラング)の密命により、ナヴィ族に対してスパイすることにもなった。パンドラにて、ジェイクはナヴィ族のネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と出会い、恋に落ちる。だが鉱物を搾取すべくナヴィ族を攻撃する人間とナヴィ族との間で、戦争が勃発する。


北米では批評家・観客共に絶賛の声が大きくも、公開が始まると日本国内では否定的意見も目立って来た本作。内容に一抹の不安がよぎります。しかし昨秋に映画館にて抜粋映像の3D上映を観ていた身としては、期待せずにいられません。ジェームズ・キャメロンが元々意図していたという大画面上映システム、IMAX 3D用の上映(日本国内では3ヶ所のみ)に張り切って観に行きました。


まず結論から言うと、映像は映画史上に残る前代未聞の出来映えです。通常の劇場用上映よりも巨大なIMAXで、しかも3D上映ということもあって、映画を鑑賞するというより体感するのに近い。これは家庭では決して不可能な体験です。この映像を観るだけでも十分に価値があります。


この映画でキャメロンが一番心血を注いだのは、間違いなくパンドラの創造でしょう。フルCGで描かれた幻惑的な世界は、奇妙なクリーチャーの数々も含めて非常に魅力的。IMAXの高細密な映像が余すことなく描き出していました。緻密に描かれ、繊細な感情を見せるナヴィ族。ジャングルの木漏れ陽。恐竜のような肉食や草食の獣や、華麗なるドラゴンの如く生物。闇で発光し、ふわりと浮かぶクラゲのような生物。見上げるような木々。目もくらむような高所。宙に浮かぶ無数の孤島。これらの世界を体感するだけでも、この映画を観る価値は十分にあります。本作が映画史に残る3D映画のマイルストーンとなったのは間違いありません。3D映像は明らかに立体感よりも奥行感を強調しており、それが観客を映像に没入させます。プロデューサーのジョン・ランドーは、「本作の3Dは付加価値でしかない」と言っていますが、それは全くの間違い。2時間40分もの間、映画の世界を楽しめ、もっと観たいと思わせたのは、3D映像の力の成せる技です。これが通常の2D上映だと、全く違う印象を抱く事になったでしょう。はっきり言って、3Dでないとこの映画の魅力や価値は、半減どころか1/3くらいになってしまうのではないでしょうか。


映像とは逆に脚本は平板そのもの。事前に予告編や設定などから、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990)のSF版と予想していましたが、まさしくその通り。物語の進行に捻りなど皆無。全てが予想通りに進行していきます。ラストだけは予想外でしたが、これを的中させるのは、余程舞台となるパンドラの設定に詳しくなければ無理。しかもそのラストも呆気ない。キャメロンに捻りを求めるのは無理としても、殆ど全てがあっさりと進められていくのは、監督として脚本家として後退を示すものです。『エイリアン2』(1986)の尋常じゃない終盤30分のような高揚感を求めると、少々肩透かしを食らいます。


本作は滑り出しが一番上手い。オーソドックスな演出をするキャメロンにしては、珍しくフラッシュバックも多用して手際良く始めます。ジェイクが初めてアバターとリンクして自由に歩き回る場面の感情はよく描けていて、これは面白くなると思わせます。ナヴィ族族長夫妻(ウェス・ステューディCCH・パウンダー)の娘ネイティリを教育係としてあてがわれ、徐々にナヴィの風習やパンドラの世界を理解していくくだりも、じっくり描かれています。これによっナヴィに感情移入していくジェイクの心情の変化も説得力がありました。


しかし後半、人類とナヴィの戦争になると、かなり粗い展開になります。バタバタと登場人物たちが落命していっても、彼ら脇役たちが描かれていないので感動も悲しさも希薄です。単なる記号の消失にしか見えません。ジェイクがナヴィの民の心を掴むイヴェントも、かなりあっさりしたもの。また、テクノロジーを駆使した圧倒的武力を持つ人類に、弓や槍、ナイフで立ち向かうナヴィ族を率いるジェイクの行動は、無謀にしか見えません。パイロットのトゥルーディ(ミシェル・ロドリゲス)の行動も、彼女が描けていないので説明不足に感じました。その後の予想外の加勢も単なるご都合主義に見えます。


キャメロンは、そろそろ自作に別の脚本家を入れた方が良いのではないでしょうか。『タイタニック』では主人公2人に観客の注意を集中させるべく、それ以外の人物たちは記号として描かれ、それが功を奏していました。公開当時はそれが批判を呼んでいましたが、むしろグランド・ホテル形式を取らなかった勇気を買いたいと思いました(もっとも、前半部分のラヴロマンスでの数々の台詞は、酷いものだと思いましたが)。対する本作は、同様の手法が明らかに失敗しています。シガーニー・ウィーヴァージョヴァンニ・リビシウェス・ステューディCCH・パウンダーといった俳優たちも、実に勿体無い扱いです。シガーニーが意味無くタバコをスパスパふかすのは、滑稽ですらあります。


そんな中でクオリッチ大佐は魅力的です。「マスクをかぶれ!」とどなるや、ドアを蹴り開けてライフルや拳銃を撃ちまくったり、終盤で予想外に粘って大奮闘してくれたり。演ずるスティーヴン・ラングの容貌と肉体が雄弁なのもあって、首尾一貫した行動原理も含め、非常に魅力的かつ説得力がありました。彼の大活躍が映画をかなり盛り上げます。コーヒーだかを飲みながら攻撃指示を出すのは、『地獄の黙示録』(1979)でロバート・デュヴァルが演じたキルゴア大佐が元ネタでしょうか。


その大佐が乗りこなすパワーローダー発展形も含め、本作は『エイリアン2』を想起させるものが多数登場します。ドロップシップもそうだし、トゥルーディは女兵士ヴァスケスの再来。クライマクスの音楽は、ジェームズ・ホーナー自身の『何かが道をやって来る』(1983)や『エイリアン2』と同様のパターンです。また、宮崎駿の影響力は否定出来ません。木々のネットワークも含めたパンドラの生態系や、自然対人類という構図、逃れられない死の受容、飛翔場面のカタルシスなど、至るところに見受けられます。大佐が乗る母艦など、『未来少年コナン』のギガントや『ルパン三世』のアルバトロスの縮小版そのものなのですから。キャメロンの芸域の狭さが露呈しています。


キャメロンは3部作の構想を練っているそうです。もし続編を作るのなら、勝手な予想ではパンドラ世界の太古の謎を探るナヴィ族の冒険物語、とかになるかも知れません。まさか、また人類との戦争は無いでしょうから。巨大立体映像で展開される異世界での大冒険ならば、また観てみたいと思わせます。


3D上映による目の疲労は殆ど感じませんでした。但し、これはIMAX固有なのでしょう、上映中に意図的に視線を動かすとフリッカーが見えます。ナヴィ語の場面では、字幕が右上の位置に出ますので、右上の字幕位置を見やすい座席の確保をお薦めします。今回、いちいち右上の字幕を見る度に視線を動かさなくて済む為、左後方の席を確保しました。スクリーンに向かって右側の席は避けた方が疲労度も少ない筈ですので、劇場中央の席を取れなかった場合は、左側の席をお薦めします。


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  • 2009年 / アメリカ、イギリス / カラー / 162分 / 画面比:1.78:1(IMAX 3D版)、画面比:2.35:1(2D版および通常3D版)
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense epic battle sequences and warfare, sensuality, language and some smoking.
  • 劇場公開日:2009.12.23.
  • 鑑賞日時:2010.1.2.
  • 劇場:109シネマズ川崎7/Sonics-DDP(IMAXサウンドシステム)での上映。正月の14時20分からの回は英語音声/日本語字幕/アイマックス3D版の上映は、516席の劇場はチケット完売。
  • 公式サイト:http://movies.foxjapan.com/avatar/ 予告編、ニュース(来日記者会見など)、壁紙、関連商品紹介、ゲーム紹介など。