ジュリー&ジュリア


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1949年。外交官の夫と共にパリに住むことになった主婦ジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)は、現地でのフランス料理にすっかり魅せられてしまった。名門料理学校ル・コルドン・ブルーに入学し、本格的な料理を学び始める。2002年。ニューヨークに住む公務員ジュリー・パウエル(エイミー・アダムス)は、仕事でストレスが溜まり気味だった。かつて母が大好きだったジュリア・チャイルドの料理番組を思い出し、そのフランス料理本に記載されている524のレシピ全てを、365日で作ることに挑戦し始める。その経過をブログに綴り出すが。


ジュリー・パウエルの原作を基にしている実話もの。映画は2つの時代を交互に描いて行きます。メリル・ストリープエイミー・アダムスの役柄と演技のコントラストが非常に面白い。この2人、『ダウト〜あるカトリック学校で〜』(2008)でも共演していて感心しましたが、今回は時空が違う為に共演ではありません。陽気でハイテンションなジュリアを演じるメリル・ストリープは、大女優の貫禄があるだけではなく、実に楽しそう。この人、以前は「私って上手いのよ」が鼻が付くところもありましたが、このところは角が取れて自分を笑える境地に達したようです。それがこういったコメディ・タッチの映画に似合っています。一方、ジュリーを演じるエイミー・アダムスも、等身大の登場人物を好演しています。元々コメディ演技が上手いとは思っていたものの、神妙だった前述の『ダウト』でシリアスな演技も見せてくれました。シリアスとコメディの中間とでも言うべき演技を見せてくれる本作では、幅広い実力を見せてくれます。勢いのあるスターを見るのは楽しいもの。ベリーショート・ヘアも可愛かった。やはり映画は同時代に観てこそ、とこういうときに実感します。


比較的安定した精神の持ち主であるジュリアと、やや不安定なところのあるジュリーを見比べるにつれ、それぞれの時代の象徴に見えて来ました。人も時間も大らかな時代と、変化が激しく、人もギスギスしてストレスの溜まる時代。画調の違いや脇役も含めた登場人物像など、それぞれの時代の対比は明確です。当然ながら、ジュリアとジュリーの夫たちの描き方にも現れています。


夫たちは献身的で、心優しい存在として描かれています。ジュリアにはスタンリー・トゥッチ演ずるポールが、ジュリーにはクリス・メッシーナ演じるエリックがいて、支えてくれます。彼ら男性たちの寛容があってこそ、2人の女性は自分の生き方が実現出来たと描かれています。共に包容力と理解力のある存在ですが、常に微笑んでいるポールに対し、ジュリー同様にエリックはイラついたり激高したり。こういった描写も時代の描き分けだと感じました。


ノーラ・エフロンの脚本と演出はきめ細かく、ついぞ子供が出来なかったチャイルド夫妻の心のひだにも触れつつ、妻たちの生き甲斐を優しく見守る夫たちの像も印象的。主人公2人が徐々にはつらつとしていく様を、活き活きと描き出しています。テンポも笑いもさじ加減宜しく、出て来る料理も美味しそうでした。それにしてもどかっと大量のバターを使い、タバコをスパスパ吸うチャイルド夫妻が、90歳以上まで長生きしたというのも面白い。興味深いのは、2人のヒロインが共に料理への情熱が高まっていくと同時に、それぞれの夫婦の性生活もお盛んになるところ。食=生=性という意味でしょうから、描写こそ露骨ではないものの、そこを避けなかったのは面白いと思いました。


料理番組に出演するジュリア・チャイルドをパロディにした、『サタデー・ナイト・ライブ』のダン・エイクロイドの映像まで観られ、これが笑えます。それだけジュリア・チャイルドが如何に一般的だったか、ということですね。


映画史に残る大傑作ではなくとも、観ている間は非常に楽しく、観終えた後に元気が出る作品としてお薦め。アレクサンドル・デプラの音楽も軽快で良かったです。


ジュリー&ジュリア
Julie & Julia

  • 2009年 / アメリカ / カラー / 123分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for brief strong language and some sensuality.
  • 劇場公開日:2009.12.12.
  • 鑑賞日時:2010.1.2.
  • 劇場:TOHOシネマズ横浜ららぽーと プレミア・スクリーン/ドルビーデジタルでの上映。正月の朝8時45分からの回、99席の劇場は4割の入り。
  • 公式サイト:http://www.julie-julia.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノートなど。