パブリック・エネミーズ



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

世界大恐慌に見舞われる禁酒法時代の1930年代シカゴ。仲間たちと銀行強盗を繰り返していたギャングのジョン・デリンジャージョニー・デップ)は、プロならではの鮮やかな手際とハンサムな容貌、市民の金には手を付けないという美学でもって、義賊として大衆やマスコミの間で人気を博していた。ある日、デリンジャーはクローク係をしているビリー(マリオン・コティヤール)と知り合い、恋仲になる。一方、FBIはデリンジャーを「社会の敵ナンバーワン」と名指しし、長官エドガー・フーヴァービリー・クラダップ)は、捜査官メルヴィン・パーヴィス(クリスチャン・ベイル)をシカゴに送り込む。


実在の強盗犯ジョン・デリンジャーを主人公にしたギャング映画は、脇役も中々の顔触れ。デヴィッド・ウェンハムリーリー・ソビエスキースティーヴン・ラングジョヴァンニ・リビシスティーヴン・ドーフリリ・テイラーと、役者は揃っています。監督は男性アクションを得意とするマイケル・マン。そのマンは、自身の代表作である『ヒート』(1995)を意識したのでしょう。冒頭の脱獄場面における、血の気の多い仲間の1人によって犠牲者が多く出るくだり、銃器の扱いに慣れ、プロとして素早く強盗を行う義理人情に厚い前科者の主人公や、結果的に別離を迎える主人公カップル、一般市民巻き添えの市街戦など、『ヒート』を想起させる設定や場面が多い。その意味では目新しさに欠けます。それでも脱獄や強盗、銃撃戦など見せ場を数多く盛り込み、140分という上映時間を弛緩させることなくぐいぐい引っ張る力量はさすが。力強く自信満々なタッチは健在です。特にアクション演出はマンらしい。1番の見せ場は、後半に用意されているデリンジャー一味と、彼らを包囲したFBIとの銃撃戦転じて逃亡劇のくだりです。ここは文字通りの大迫力。銃撃者の肩越し視点のキャメラ、耳を聾せんばかりの凄まじいサウンド。緊張とアクションの爆発、追撃戦の盛り上げも上手い。


しかし映画全体の印象は、いささか散漫なものでした。追う側であるパーヴィスの影が薄いし、背景の時代も描き切れていません。デリンジャーとビリーの恋愛が盛り上がらないのは、女を描けないマンだから予想が付くものの、デップとコティヤールという実力派美男美女を据えたのに、勿体無く感じました。


それにしてもクリスチャン・ベイルは粘り強い俳優です。ここ最近の映画を眺めてみると、『3時10分、決断のとき』(2007)ではラッセル・クロウの、『ダークナイト』(2008)ではヒース・レジャーの、『ターミネーター4』(2009)ではサム・ワーシントンの引き立て役となっています。本作での立ち位置も同様。刹那的なまでに己の美学を貫こうとするデリンジャーと対照的に、生真面目に悪党を追う捜査官を抑えた演技で表現していました。それでもパーヴィスの苦悩や焦りがもう少し描かれていたら、もっと深みのある役になっていた事でしょう。終幕でのパーヴィスとエンディング後のパーヴィスの末路との間に、繋がりが見えません。全体的に冷徹な演出はマンらしいですが、本作での表層的な人物像のなぞり方では、ただ単に観客の感情移入を妨げるだけになっています。


時代ものにも関わらず、撮影はハイビジョンで行われています。その場に居合わせているかのようなドキュメンタリ・タッチを狙ったようですが、ヴィデオ映像と時代劇の相性は良いとは思えませんでした。マンは本作を時代劇ではなく、現代との同時代性を感じてもらいたかったようです。挿入曲にエレキギター使用のものが使われていたりで、意図は伝わります。しかし時折いかにもなヴィデオの走査線映像になるので、それが観客と画面の間にノイズになって邪魔しているように感じました。事前に危惧されたように、フィルム映像こそが似つかわしいと思いました。但し、マンの盟友である撮影監督ダンテ・スピノッティらしい、構図や陰影に優れたショットも多かった。


面白くとも散漫な印象を残す難点はあるものの、やはり悪党は映画の華。悪党を華麗に演じるのが大スターのジョニー・デップなのですから、それだけでも見ものとなっています。それとラストが締まっているのも好印象でした。


パブリック・エネミーズ
Public Enemies

  • 2009年 / アメリカ / カラー / 140分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated R for strong graphic violence, language and brief sexuality.
  • 劇場公開日:2009.12.12.
  • 鑑賞日時:2009.12.29.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ港北8/ドルビーデジタルでの上映。年末の火曜日15時20分からの回、99席の劇場は9割の入り。
  • 公式サイト:http://www.public-enemy1.com/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、ジョニー・デップ来日レポートなど。