トランスフォーマー:リベンジ



★film rating: C
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

金属生命体トランスフォーマーの善の軍団オートボットと、悪の軍団ディセプティコンの壮絶な戦いから2年。米国政府はオートボットと連携して、世界各地に出現するディセプティコン残党の掃討作戦を実行していた。一方、事件に巻き込まれたサム(シャイア・ラブーフ)もハーヴァード大生になり、親元ばかりか恋人ミカエラミーガン・フォックス)とも離れて大学生活を送ることになる。だがサムは、望まぬ戦いにまたもや巻き込まれてしまう。


マイケル・ベイという監督は殆どどうしようも無い映画ばかり作って来た人なのですが、前作『トランスフォーマー』(2007)は映画としての出来は大した事がなかったものの、意外にもコメディ部分が楽しめる点で、彼の映画にしては珍しく嫌悪感を抱きませんでした。この人の映画に対する嫌悪感とは、技量も無くがさつ、やたら感動と迫力を図々しくも押し付けようとする傲慢さに起因します。意外にも前作よりも好評とのことでしたので、それなりに期待して観に行きました。


普段映画を観る際、マイケル・ベイのような三流監督であろうと、事前に批評などで悪く書かれていようと、それでも何か楽しませてくれるだろう、と楽しみにして観に行きます。で、この人の場合ほぼ毎回ダマされるのですが、数年前に友人に言われたのが「ダメなのを確認しに観に行っているのでは?」ということ。全くその通り。今回もロクでも無いベイのダメ映画フィルモグラフィーの系譜に入る作品だ、と確認出来ました。ここまでダメな映画は、ベイの『アルマゲドン』(1998)か、ベイの『パール・ハーバー』(2001)か、ベイの『バッドボーイズ2バッド』(2003)以来でしょう。ドラマを描けず、アクションを描けず、物語を語れない2時間半、最初から最後まで常にキャメラは動き続け、何かしらがボカンボカンと爆発し、唐突に下ネタが挿入され、と騒々しく、また、せわしないのですが、何しろ無意味・無駄が多過ぎます。そのショットに意味は無くとも、一見するとカッコ良く見える映像を撮る才能だけはある、という典型的なMTVもしくはCF出身の監督らしく、派手な映像をひたすらごてごて並べ立てます。つまりハッタリだけの映像は撮れるので、大画面栄えするショットには事欠きません。良く言えば「あぁ映画館で大作を観たな」という実感だけはあります。


しかし話も殆ど無いに等しいのだから、せいぜい1時間半程度に収められる映画ですよ、これは。ホラー趣味の脚本家アーレン・クルーガー(『スクリーム3』(2000)、『ザ・リング』(2002))も参加しているので、シャイア・ラブーフが謎の文字を幻視するくだり等にそのテイストがあるものの、全体的に展開も何もあったものではありません。大体にして、世界各地にアメリカ軍が乗り込んでドカンドカン撃って大暴れする冒頭からして、いくら低知能な能天気映画であっても、その右翼思想には辟易してしまいます。まぁ、ベイ好みの軍隊とエロと暴力といった題材を闇鍋のように放り込んでいる点で、幼児的なこの映画の程度が伺い知れるというものではありますが。


アクション大作ばかり撮っているベイが、肝心のアクションを描けないのは今に始まったことではありません。『ザ・ロック』(1996)の頃からそうですが、今回も相変わらず緊張も盛り上がりも無く、ひたすら目まぐるしく物が壊され、必要以上に惨たらしくロボットが惨殺されるだけです。眉間銃撃、目玉潰し、顔面崩壊、胴体ぶった切り、脊髄引っこ抜きと、字面だけ読むと物凄い残酷描写。はい、これらをロボットにさせています。1ショットだけ見ると壮観な映像も多いのですが、映画は編集なのです。ただただロボット同士が殴りあっているのを、ぐらぐら動くクロースアップで見せられても、迫力も緊張も沸きません。ロボットはどれも基盤にように細かいディテールがなされ、それを精緻なCGで描いているので、ぐらぐらアップ画面ばかりでは、象形文字がゴチャゴチャ動いているだけにしか見えない。何が何やらさっぱり分かりません。仕舞いには、勝手にしてくれい、という気分になります。


この人のアクション描写が詰まらないのは、例えば『パール・ハーバー』中盤の40分にも及ぶ真珠湾攻撃の場面もそうなのですが、物語を進める律動にはならず、ドラマを描く手段ではなく、単なる破壊にしか過ぎないからです。しかもそのアクション・シークェンス自体にも、展開が少ない。ひたすら物がぶっ壊れている様を撮っているだけ。ここ何作かで明らかになったベイの人体破壊嗜好とアクション描写は、彼の中では同一線上にあるようです。要は単に破壊趣味なだけの人なのですね。


下手糞な編集で醜悪な脂肪のごとき飾られた無意味な場面や描写の数々。延々続くアクションではなく、いつ終わるとも知れぬ破壊場面の連打。クライマクスになっているエジプトの場面なぞダラダラと1時間もあり、いい加減欠伸が出ましたよ、わたしゃ。ここの場面の主題は、シャイア・ラブーフが死んだオプティマス・プライムを蘇らせようと、敵の攻撃をかいくぐりながら向かうことですよね。だったらそれに焦点を絞って描けば良い話じゃないですか。ところがベイはそれだけじゃ満足出来ないようなんです。あれこれゴチャゴチャ複数同時進行で迫力を盛り上げているつもりで、ただただ展開が不必要にノロく散漫で、緊張もへったくれもありません。映画監督最大の役目とは、展開や人物の心理を適切に取捨選択して、映像に移し変える事の筈。つまり「語る」という事。その点で、ベイがてんでそういったことに興味も才能も無いのは明らかです。


今回は身勝手な主人公も含めて登場人物にも感情移入出来ず、また主人公の両親を巡る笑うに笑えないギャグも滑りまくって鬱陶しいだけ。スティーヴ・ジャブロンスキーの音楽も打ち込み主体に変わっており、こちらも詰まらなかったです。


スティーヴン・スピルバーグが「これは君の最高傑作だ」とベイに言ったそうですが、ベイのロクでもない映画の中でマトモという意味だったのか、それとも本気で誉めたのか、あるいは単なる外交辞令だったのか、是非スピルバーグ本人に問い詰めて確認してみたいもの。残酷趣味こそ共通するものの、ベイとスピルバーグとでは、監督としての資質は雲泥の差です。


前作を派手に拡大再生産しただけで中身スカスカな駄作。やっぱりマイケル・ベイのフィルモグラフィには、凡作と駄作のクズ映画しかありません。映画が終わった後には疲労感しか残りませんでした。




尚、本作は通常のフィルム上映と、DLPプロジェクターを使用したデジタルIMAX上映があります。IMAXとは、巨大スクリーンを使った高画質上映のこと。前者は普通の映画館で観られますが、後者は109シネマズの川崎(神奈川)、菖蒲(埼玉)、箕面(大阪)の3箇所限定です。僕の目当てはデジタルIMAX上映だったのですが、これは一見の価値あり。通常のスクリーンよりも大画面で、相当な高画質。音質も家庭ではまず再生不可能は音圧がありながら、切れ味鋭い高音質でした。今後、IMAX上映作品も続々待機中のようですので、機会がありましたら是非ご覧下さいませ。


トランスフォーマー:リベンジ
Transformers: Revenge of the Fallen - The IMAX Experience

  • 2009年 / アメリカ / カラー / 150分 / 画面比:2.35:1(IMAX版は一部1.44:1)
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sequences of sci-fi action violence, language, some crude and sexual material, and brief drug material.
  • 劇場公開日:2009.6.20.
  • 鑑賞日時:2009.6.29.
  • 劇場:109シネマズ川崎 Screen 7/ドリニアPCMでの上映。平日月曜13時40分からの回、516席の劇場は7割の入り。IMAX目当ての人が多かった様子。
  • 公式サイト:http://www.tf-revenge.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、ニュースなど。
  • 109シネマズ公式サイト内アイマックス・ページ:http://www.109cinemas.net/imax/ハリー・ポッターと謎のプリンス』はIMAX 3D上映。期間限定blogでは、3D映画の見え方など解説もあって面白い。