スター・トレック



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

無軌道な日々を過ごす青年ジェームズ・ティベリウス・カーク(クリス・パイン)。彼の父ジョージは、人生最後の15分を艦長として800人を救い、宇宙に散った。ジェームズはその混乱の最中にこの世に生を受けたのだ。やがて青年カークは、父を越えるべく惑星連邦艦隊に入り、トラブルを起こしながらも新造艦USSエンタープライズ号の初出動に潜り込む。そこで彼は後の盟友スポック(ザカリー・クイント)と、ボーンズことマッコイ医師(カール・アーバン)らに出会う。彼らを待ち受けていたのは、圧倒的武力を持って破壊を繰り返すロミュラン星人ネロ(エリック・バナ)。彼の真の狙いはスポックだった。


映画はTVシリーズ宇宙大作戦』の前日談兼再構築となっています。カーク、ヴァルカン星人と地球人のハーフであるスポック、ドク・マッコイ、ウフーラ(ゾーイ・サルダナ)、スコッティ(サイモン・ペッグ)、スールー(ジョン・チョー)らは、御馴染みの登場人物でありながら、微妙に設定を変えてあります。ほう、スポックとウフーラが…などと、少々驚きもありました。特にオリジナル版を知っているとニヤニヤしてしまうのが、スポックとボーンズ。時々、それぞれレナード・ニモイとデフォレスト・ケリーにそっくりに思える瞬間がありました。カール・アーバンはケリーにまるで似ていない顔の造作なのに、眉を上げる仕草などよく研究したようです。「似る」というのは必ずしも顔の作りではない、ということですね。主要キャストは若手俳優で固め、ブルース・グリーンウッドエリック・バナら中堅俳優を要所に配置していますが、何より嬉しいのは元祖スポックのレナード・ニモイが登場するところ。時空を超えた共演はが楽しい。


映画は冒頭に迫力満点かつエモーショナな見せ場を置き、滑り出しは上々。その後もテンポ良く快調に物語を進めます。2時間余、飽きることはありませんでした。が、監督はJ・J・エイブラムスです。TVシリーズエイリアス』(2001-2006)や『LOST』(2004-)で名を上げ、劇場初監督作品『M:i:III』(2006)でヒットを飛ばした男。『M:i:III』を観たとき、「ゆとりの無い段取り的展開と、大画面をまるで生かしていないせせこましい構図を見るにつけ、J・J・エイブラムスは所詮テレビの監督だ」などと書いたのですが、本作も全く同様でした。派手な映像はあっても、映画的な広がりに欠けています。全体にせせこましい編集でもってスケール感や高揚感に欠け、そのせいでラストもカタルシスが薄い。例えばエンタープライズ号処女航海の場面など、実にあっさりとしたもの。ロバート・ワイズによる1979年版『スター・トレック』は、そんなに面白くない映画だったものの、同じような場面では広がりや高揚感がありました。それにクライマクス、騎兵隊の到着とでも言える場面も、タイミングが下手なのか驚きと嬉しさがぶわっと湧き上がりません。タメも無く段取りだけなのは映画ではありません。TVです。


加えて気になったのは、知性の欠如。スター・トレックの精神は、カークら善玉が悪いヤツ相手に暴力で片付けるものではなかった筈。道徳的・哲学的なものを、分かりやすく描くものでした。それが悪い輩が暴れまわっているので、エンタープライズ号がやっつけると単純化されています。思えば『M:i:III』も『スパイ大作戦』の悪しき単純化の例でした。どうもJ・J・エイブラムスは、オリジナル版の持つ知性を削ぎ落とした短絡的な低知能の映画を作る傾向にあるようです。またSFとしては、タイム・パラドックスのいい加減な扱いが気になりました。


かように大きな欠点があるにも関わらず、それでもこの映画を嫌いになれません。理由は、近年に珍しく楽観的なSFだからです。未来というと薄汚れた疲弊しきった人々が住む都市か、巨大権力の圧制が敷かれた管理社会ものが幅を利かす中、異星人同士が洗練されたデザインで構築される世界の中、友好的に手を結んでいく。こういう眺めは気分が良いものです。


映画は全体的に音に秀でていました。特にサウンド・デザインは非常に優秀。宇宙空間での無音状態などで緩急を使い、迫力や緊張感を出していました。デザイナーは、この分野の草分け的存在のベン・バート。『スター・ウォーズ』シリーズや『インディ・ジョーンズ』シリーズ、最近では『WALL・E/ウォーリー』(2008)などで素晴らしい仕事をしていました。また、マイケル・ジアッキーノの音楽も良かった。場面場面にメリハリを付け、スコアリング(画面の編集に合わせた曲作り)もしっかりしていた。近年のハリウッド映画はスコアリングを気にしない打ち込み系が目立つので、こういった正統派映画音楽は喜ばしい。映画版独自のテーマ曲だけではなく、ラストに流れるのはアレクサンダー・カレッジ作曲のTV版テーマ曲。こういった配慮は嬉しいものです。


次回作の製作も決定したのですから、もっと知性を望みたいものです。


スター・トレック
Star Trek

  • 2009年 / アメリカ / カラー / 126分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for sci-fi action and violence, and brief sexual content.
  • 劇場公開日:2009.5.29.
  • 鑑賞日時:2009.6.20.
  • 劇場:ワーナーマイカル・シネマズ港北ニュータウン10/ドルビーデジタルでの上映。土曜18時05分からの回、99席の劇場は8割程度の入り。1日に1回の上映になったのと、この日が1,000円サーヴィス・デーだったので、入りが良かった?
  • 公式サイト:http://startrek2009.jp/ 予告編集、ギャラリー、パノラマ、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノートなど。