ターミネーター4



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2018年、「審判の日」が起きてしまった後の世界。21世紀初頭に反乱を起こした軍事スーパーコンピュータ「スカイネット」に対し、人類はその圧倒的な武力に苦戦していた。抵抗軍リーダー、ジョン・コナー(クリスチャン・ベイル)は、スカイネットのマシーンを停止させる機密を手に入れる。それだけでなく、彼は自分自身のみならず未来の自分の父であるカイル・リース少年(アントン・イェルチン)が、スカイネット側の抹殺リスト上位にあることを知った。一方、2003年に死刑執行された元囚人マーカス・ライト(サム・ワーシントン)は、自分が荒廃した見知らぬ世界にいることを知る。ライトはカイル・リースと知り合うが、リースはライトの目前でスカイネットに拉致されてしまった。マーカスは少年の救出に向かうが。


映画の内容が一見さんお断りなのは言うまでもありません。例えば、成長したカイル・リースは、スカイネットが狙うジョン・コナーの母であるサラ・コナー救出の為に1984年のL.A.に使わされるとか。カイルは死亡するも、一夜を共にしたサラのお腹には、後のジョンが宿るとか。映画の前提として、観客が過去の作品を観ているものとして作られています。これは結末が予想出来る新3部作の幕開けであるものの、息子による父殺しの変種とも言えます。このテーマをSFならではの掘り下げでどう見せてくれるのか、興味は尽きません。


しかしながらその幕開けを任されたのは、恐らくは僕も含めて誰1人期待していなかったであろう監督、マックGです。『チャーリーズ・エンジェル』2作は、映画の出来云々よりも、広い心でもって細かい目くじら立てずに冗談映画として観る映画でした。あのガチャガチャした作風と、ジェームズ・キャメロンが作り上げた重厚な破滅SFとは、脳内で一致しないのはやむを得ません。その点では、『ターミネーター3』(2003)で世間一般には失敗作の烙印を押されたジョナサン・モストゥと別の意味で、厳しい視線がさらされていた筈です。


実際に観てみると、予想と違ってかなりまっとうな映画には仕上がっていました。彩度を落とし、薄汚れた登場人物やマシーンなどで配置された画面でもって荒廃した世界を描いていますし、お茶らけたユーモアを廃してシリアスに展開を捕らえようとしています。監督の意気込みや力感は伝わって来ます。過去の作品に登場したスカイネットのロボット軍団の変遷も何となく分かるようになっていて、目を楽しませてくれますし、視覚効果はさすがにシリーズ最高。サウンドも迫力満点です。SFとしての世界作りの点ではしっかりしていました。


思ってもいなかったのが、キャメロンへの敬愛の念が溢れていること。まずはシリーズ第1作へのオマージュから映画は始まります。冒頭のタイトル・デザインは『1』の廃墟版アレンジだし、その後のジョンとエンドスケルトンとの闘いは同作の工場でのクライマクスをそのまま。キャメロンへのオマージュは第1作目のみならず『ターミネーター2』(1991)にまで及び、さらには口の利けない少女やいきなりの背後からの串刺し等、『エイリアン2』(1986)を髣髴とさせる登場人物や映像もてんこ盛り。このテイストは映画の最後まで続きます。


オマージュと映画としての面白さは別です。オマージュのやり過ぎ、それも捻ったものは少なく、ほぼそのままの引用が続くので、敬愛の念こそ分かれども、重要な場面でも先が読めてしまうのですから、当然ながらスリルが盛り上がらない。また各アクション場面でも粘りが無く、派手な映像とサウンドこそあれど、緊張感や盛り上がり、爽快感に欠けています。ドラマ面では、コナーとライトが出会ったとき、対峙したときの描き込みが浅い。これがキャメロンだったら、こってりとケレンたっぷりに描き、ラストもあざといまでに感動させようとするのでしょうが、マックGの演出はあっさりしたものです。またこれは脚本のミスですが、捕らえたリース少年を何でスカイネットはさっさか殺さないのか。牢屋に入れてジョン・コナーが救出にやって来るのを待ち構えるというのは、血も涙も無い機械軍団にあるまじき作戦。これが緊張感に欠ける最大の原因でしょう。力が入っているのはキャメロン作品へのオマージュや再創造だけというのは、大作にしては寂しいものとなっています。


主演のクリスチャン・ベイルは大力演。『ダークナイト』(2008)とは違い、全編緊張感を漂わせ、それでいながら単調にならない。しかし前述したようにドラマとしての底が浅いので、勿体無い。注目のサム・ワーシントンは、今年最大の大作『James Cameron's アバター』の主役にも抜擢された新鋭。初めて見た役者ですが、中々の好演でさり気なくも良かったです。前述のキャメロン作品だけではなく、今後も話題作が目白押しですし、期待したい新鋭です。


ダニー・エルフマンの音楽は、近年の彼のキャリアの中で最低の出来でした。ブラッド・フィーデルによる有名なテーマ曲を消化しようとしていますが、アレンジが悪い。いや、ダサい。全体に単調で面白みに欠けます。これは監督の映画音楽に対するセンスの無さが露呈した結果とも思いました。


ターミネーター4
Terminator Salvation