消されたヘッドライン



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ワシントンD.C.で麻薬密売に関連したと思しき黒人青年が射殺された。翌朝、気鋭の下院議員コリンズ(ベン・アフレック)の元にいた女性スタッフが、地下鉄ホームで謎の転落死を遂げる。女性は民間傭兵会社を巡る汚職を調査していたのだ。しかもコリンズと女性は不倫関係にあったらしい。事件の裏に何かあると睨んだ敏腕新聞記者カル(ラッセル・クロウ)は、新米のWeb版記者デラ(レイチェル・マクアダムス)と共に真相を追う。


ポリティカル・スリラーの臭いがぷんぷんする序盤から、かなり引き込まれます。脚本はマシュー・マイケル・カーナハン(『キングダム/見えざる敵』(2007))に、ジェイソン・ボーン・シリーズのトニー・ギルロイですから、上質のスリラーを期待するのは当然でしょう。おまけに役者は揃っています。編集長役にヘレン・ミレン、コリンズ夫人にロビン・ライト・ペン、事件の鍵を握る男にジェイソン・ベイトマン、大物議員役にジェフ・ダニエルズ。派手さは無くとも、きちんと演技が出来る顔触れが揃っています。


主人公を演じるラッセル・クロウは久々の大当たり役でした。太って無精髭、髪ぼうぼう、服装もラフで、部屋も仕事場も車も汚い。自分の見た目には無関心なのに、自分が書く記事に対するこだわりは強い。骨の髄までジャーナリストの彼にとって、記事が彼の内面を表わしているからなのでしょう。クロウが敏腕記者を演じるので熱血漢演技を予想していたら、さらりとかわされました。冷静で優しさや包容力があり、落ち着いた演技。レイチェル・マクアダムスとの場面などにも良く出ています。正体不明の暗殺者と鉢合わせしたときの緊張や怯え、さらには人間的な欠点もさらり演じていて、でも深みのある演技。水を得た魚のように伸び伸び好演していました。


原作はBBCで放送された6話連続のドラマ『ステート・オブ・プレイ』(2003)だそうですが、私は未見です(NHK-BSにて放送済み)。連続ドラマを2時間強にまとめているので、話の展開が速い速い。現代アメリカネタをたくさん盛り込んでいるのは、このアメリカ版のオリジナルでしょう。よって現代に作られる意義があるかのように見えます。イラク戦争における民間傭兵会社、PTSD、ジャーナリズムの上に立つ商売優先の企業と、どれも今旬なネタであり、しかも巨大な陰謀を想像してしまうものが多い。おまけにプロットも二転三転と展開し、飽きさせません。


しかしながらこの映画、終幕に失速してしまいます。特に軍産複合体を敵役に想定しているかのように見せて観客の興味を相当引っ張りながら、最終的には個人の犯罪に矮小化してしまっています。期待されていた真相と、実際に用意されていた真相との落差が激しい。だったら疑似餌はもっと小さくすべきでした。大騒ぎしていたのに実は大したことが無かった、という皮肉が利いているかと言えばそうでもなく、風刺劇にしては娯楽が勝ち過ぎ、娯楽映画としては風刺が中途半端に忍び込む。どっちつかずの結末が大変もどかしい。作者たちは策に溺れてしまいました。語り口そのものは非常に面白く、もっと上手くやれば傑作になったかも知れないのに、残念です。


それにしても、この邦題は一体何でしょうか。ヘッドラインは劇中でも消されないので、意味不明の邦題になっています。原題の『State of Play』も単語は簡単なのに訳が難しいので、配給の東宝東和が苦労したのでしょうが(パンフレットでは越智道雄が「現状」と訳しています)。


消されたヘッドライン
State of Play

  • 2009年 / アメリカ、イギリス、フランス / カラー / 127分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some violence, language including sexual references, and brief drug content.
  • 劇場公開日:2009.5.22.
  • 鑑賞日時:2009.6.5.
  • 劇場:TOHOシネマズ横浜ららぽーと10/ドルビーデジタルでの上映。金曜21時半からのレイトショウ、105席の劇場は十数人の入り。
  • 公式サイト:http://www.kesareta.jp/ 予告編、キャラクター&マップ紹介、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、スタッフ&キャストへのインタヴュー動画集など。