天使と悪魔
★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。
ロバート・ラングドン教授(トム・ハンクス)は、ヴァチカンからある紋章についての説明を求められた。その紋章は伝説の秘密結社イルミナティのものだった。イルミナティはガリレオ・ガリレイを中心とする科学者たちで結成されたが、ヴァチカンからの激しい宗教弾圧によって消滅したものと思われていたが、ローマ教皇逝去に伴う教皇選挙(コンクラーベ)を機に復活を遂げたのだ。彼らは教皇有力候補となっている4人の枢機卿を誘拐、1時間ごとに1人を殺害すると予告。さらにはCERN(欧州原子核研究機構)から盗み出した反物質を用い、ヴァチカン市内での大爆発を企んでいた。ラングドンはCERNの科学者ヴィットリア(アイェレット・ゾラー)と共に、事件解決の為に奔走する。
ロン・ハワード監督の前作『フロスト×ニクソン』(2008)は、上質のアメリカ娯楽映画の佳作でした。特に小品を監督するときに優れた仕事をする場合が多い人です。しかしハワードには大味な娯楽大作の監督という顔もあります。彼の代表作である『バックドラフト』(1991)、『遥かなる大地へ』(1992)、『アポロ13』(1995)、『ビューティフル・マインド』(2001)といった作品に、コクや香りを求めるのは難しい。正直に言って、『チェンジリング』(2008)はクリント・イーストウッドに交代して良かったと思ったものでした。
本作の元となったダン・ブラウンの原作はとても楽しく読みましたが、細かい箇所は殆ど記憶にありません。いや元々、マイクル・クライトンの小説のように、情報盛りだくさんで読書中は面白いものの、マネキンのような登場人物によって記憶には残らない本でした。それが悪いと言っているのではありませんが、薄味大作監督との相性によって、出来栄えはある意味保証されたようなもの。その点では概ね予想通りの映画で、2時間余楽しませてもらえますが、それ以上でもそれ以下でもありません。
但し前作『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)映画版(原作とは時制が逆ですが)の不評で省みたのか、脚本家チームはより映画向きに脚色しています。相当にアップテンポで、内容自体もかなり改変しているようです。事件をほぼ1日の間に集約し、タイムリミットが幾つも仕掛けられている。次々と危機また危機が襲い掛かるので、アクション/スリラーとして退屈する暇さえありません。がんがん進むのは結構として、謎は全てラングドン以下探偵メンバーがその場で解いてしまうので、観客が置いてけぼりなのは前作同様。これは文章で読んで面白いものと、映像にして面白いものは違う為です。映画の中で観客が解けないなぞなぞを出されても困ります。つまりはそもそも映画化向きの題材ではない、とも言えます。
それでも映画としての価値があるのは、壮大な映像を眺められるから。文章で読むのと映像で観るのとでは、各名所の存在感が断然違います。ローマ市内、ヴァチカン市国を舞台しているので、観光映画として楽しめるのです。パンテオンやシスティナ礼拝堂など、僕自身が11年前に行った名所があちこち出て来て、結構楽しめました。しかし各名所もかなり高度なVFXの賜物。実際に撮影出来なかった所が多かったのと、破壊される場面があったなどの理由によるものです。コンクラーベの模様が見られるのは面白かったことも言い添えておきましょう。
トム・ハンクス、ユアン・マクレガー、アイェレット・ゾラー 、ステラン・スカルスガルドと役者は揃っていますが、無難にこなしているだけで特に印象には残らず。ハンス・ジマーの音楽は格調高く、且つスリリングで、これは中々良かったです。
天使と悪魔
Angels & Demons
- 2009年 / アメリカ / カラー / 138分 / 画面比:2.35:1
- 映倫(日本):指定無し
- MPAA(USA):Rated PG-13 for sequences of violence, disturbing images and thematic material.
- 劇場公開日:2009.5.15.
- 鑑賞日時:2009.5.23.
- 劇場:ワーナーマイカル・シネマズ港北ニュータウン1/ドルビーデジタルでの上映。公開2週目の土曜日15時15分からの回、434席の劇場は約30人の入り。客足少ないのは、豚インフルエンザの影響もあり?
- 公式サイト:http://angel-demon.jp/ 予告編、ラングドン教授やヴァチカン市国紹介、キャスト&スタッフ紹介、ロケーション紹介&プロダクション・ノートなど。