レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

今や赤壁における決戦の時は近付いていた。80万の軍勢を率いる曹操チャン・フォンイー)を迎え撃つべく、5万の兵力を持つ劉備(ユウ・ヨン)・孫権チャン・チェン)連合軍は、準備を進めていた。固い絆で結ばれた孔明金城武)と周瑜トニー・レオン)は互いに競い合うように軍備を進め、一方孫権の妹尚香(ヴィッキー・チャオ)は曹操軍にスパイとして潜り込む。


昨年11月に観た前作には、それなりに楽しみつつも完成度については左程感心しませんでした。よって今回は余り期待せずに観た結果、思っていたよりも楽しめました。相変わらずのマカロニ・ウェスタン調というべきか(あるいはセルジオ・レオーネ調とでも言うべきか)、こってりたっぷり大袈裟ではあります。2時間半近い映画の内、赤壁の戦いが描かれるのはラスト1時間程度。そこに向けて直線的に盛り上げているのは、腐ってもジョン・ウーか。前作からの観客を散々待たせているのだから当たり前ではありますが、監督としての責務はまっとうしました。さてこの2部作で「ハリウッドに負けない映画」になったかどうか。


相変わらず泥臭い場面が目に付き、ハリウッド映画に見慣れていると苦笑せざるを得ない場面は続出します。その最たるものが、スパイとして曹操軍に入り込んだ孫尚香ヴィッキー・チャオ)と、トン・ダーウェイ演ずる蹴鞠の達人兵士との交流のくだり。孫尚香が兵士を騙して敵陣内の調査を行うくだりなど、子供向けコントのようで観ていて赤面します。またこの2人が友情を育む様子を描いていることから、後半の展開も想像通り。泥臭さの最たるものが、周瑜の妻・小橋(リン・チーリン)が後半に起こす行動です。現実にあんな行動を起こされては、身勝手でしかないし、味方軍勢の足を引っ張るのみでしょう。観客に感動を与えようとするのであれば、王道であってもどこか観客の上手を行くよう、脚本家達には知恵を絞ってもらいたいものです。しかしこういった描写も、ジョン・ウーらしいと言えなくもありません。思い出してみましょう。香港時代だけに限らず、ウーの渡米後の作品であっても、傑作『フェイス/オフ』(1997)でさえ、感情的な描写はかなり大雑把だったのですから。要は大仰な展開であっても、観客の求心力さえ失わなければ良いだけなのです。


また人物描写も気になりました。前作は、シリアスな歴史絵巻もしくは英雄譚かと思っていたら、実は荒唐無稽な超人英雄譚でした。ところが本作は急に人物に多面性を持たせたシリアス路線となっています。例えば、曹操が疫病に掛った部下たちを慰問するくだりなど、性格がかなり真っ当に描かれており、コスプレが好きという前作の意表を付いた設定など霧散消失。実はこの人物はこういう面も持っていた、などと今更言い訳せず、後半たる本作では物語に集中してもらいたかったものです。


待ちに待っていた戦闘場面は迫力満点で見応え十分。前作にあったような奇々怪々な陣形作戦も小ぶりながらも再登場し、お化け屋敷状態で敵兵を襲ってくれて楽しませてくれます。今更ながら気付きましたが、陣形描写に関しては、時代ものの戦争映画『サハラに舞う羽根』(2002)からの影響があるのかも知れません。ともあれ、実写とCGを合わせた大規模な戦闘場面は、本作の目標だという「ハリウッドに負けない映画」に近いものとなっています。戦闘描写で観客を圧倒することを目的としながらも、同時に戦闘の悲惨さも描いており、反戦をテーマにしつつ娯楽映画として暴力を楽しませる矛盾も気掛かりにはなりました。


などと問題山積ながらも超大作映画として盛り上げたのですから、これは昨秋からのイヴェントとしては及第点を差し上げられます。


レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―
赤壁 決戦天下 Red Cliff II

  • 2009年 / アメリカ、中国、日本、台湾、韓国 / カラー / 144分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):(未公開)
  • 劇場公開日:2009.4.10.
  • 鑑賞日時:2009.4.28.
  • 劇場:ワーナーマイカル・シネマズ港北ニュータウン1 ドルビーデジタルでの上映。公開3週間目の平日火曜日9時35分からの回、434席の劇場は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://redcliff.jp/ 予告編、キャラクター&マップ紹介、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、レポート(第61回カンヌ映画祭、来日記者会見、第21回東京国際映画祭)、インタヴュー動画など。コンテンツ盛りだくさんでこちらも超大作。