ザ・バンク 堕ちた巨像


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

国際刑事警察機構(インターポール)捜査官のルイ・サリンジャークライヴ・オーウェン)は、不審な資金の流れがあると目される国際銀行IBBCを追っていた。が、目の前で同僚捜査官を殺害されてしまう。サリンジャーはニューヨーク検事局のエレノア(ナオミ・ワッツ)と共に共同で捜査に当たるが、行く先々で証拠や証人を消されてしまう。彼らは難攻不落な巨悪を追い詰めることが出来るのか。


富を求めるばかりに私利私欲にのみ走り、モラルを忘れた資本主義の行き過ぎが叫ばれる昨今、何ともタイムリーな題材を扱ったものです。監督は『ラン・ローラ・ラン』(1998)、『パフューム ある人殺しの物語』(2006)などのドイツ人トム・ティクヴァ。脚本は新進のエリック・ウォーレン・シンガーが担当しています。


原題の「The International」が示す通り、映画で描かれるのは国境を越えた犯罪だけではありません。国際色豊かなロケ地もこの映画の楽しみの1つ。ベルリン、ルクセンブルグ、リヨン、ミラノ、ニューヨーク、イスタンブールと、あちこちに舞台が移動します。特に興味深いのがインターポール捜査官を主人公にしていること。リヨンにある本部も登場し、彼らが各国警察と協力して国際犯罪を追う姿だけではなく、また逮捕権が無いゆえの悔しさなども描かれており、興味深いものとなっています。


トム・ティクヴァの演出はタイトでディテールも重視、しかもダイナミズムがあり、前半は緊張感が途切れません。捜査の過程も含めて非常に面白く、ハラハラさせられる場面も少なくない。正体不明の殺し屋が登場する暗殺場面など、手に汗握ります。傑作スリラーの誕生を予感させました。


クライヴ・オーウェンは無精ヒゲによれよれのスーツ。相変わらずムサ苦しい。私生活が全く描かれず、登場人物の台詞にある通り、今の仕事一筋。熱血漢で執念深い根性型、しかし鋭い眼力の捜査官役を、オーウェンは熱演しています。一方のナオミ・ワッツは凛として、これまた相変わらず清潔感があって美しい。役柄の上で夫と幼い息子がいる生活がさらり描かれており、これが終盤の展開に生きていきます。俳優も役も含めて、この取り合わせは良かったです。


映画は中盤に大掛かりなアクション場面を用意しています。フランク・ロイド・ライト設計によるニューヨークはグッゲンハイム美術館を舞台に、尾行、転じて大銃撃戦が行われます。これが凄まじい迫力。螺旋階段状の美術館で、上下階から次々襲い掛かる2人1組の殺し屋グループを相手に、絶対的に不利な状況を如何に打開しながら脱出するか。暴力や破壊の描写はリアリズムを徹底しつつも、娯楽映画としての見せ場として機能しています。クライヴ・オーウェンが劇中で初めて発砲する場面でもあるからでしょう。散々煮え湯を飲まされて来たのに反撃する爽快感があります。徹底的に破壊されるグッゲンハイムを観て、よくぞこんなものを撮れたものだと驚きました。エンドクレジットを観て、セットを丸々作って撮ったと分かりましたが、それまでの緊張や鬱屈から観客を初めてカタルシスに導く素晴らしい場面となっています。


但し物語として、ここで急にリアリズムが失われたのも事実。とある人物と組んでの脱出劇となるのですが、映画としてはありとしても、現実的には荒唐無稽そのもの。無論、これは「映画」ではありますが、ここに至るまでは現実感のあるスリラーとして組み立てられていたのです。その現実感が銃声と共に砕け散ってしまい、案の定、この後の映画は失速してしまいました。緊張感のある描写もあるものの、盛り上がりに欠けています。ラスト、正義の裁きが降りたように見えて、実際に悪が裁かれたのは復讐者によってというのも皮肉。面白いと思うものの、映画全体が娯楽映画として撮られているのだから、もっとスカッとした幕切れでも良かったのではないでしょうか。結果的には、風刺よりもサスペンス・アクションとしての味付けが濃い中途半端な映画となってしまいました。観ている間はそこそこ面白いものの、観終えて釈然としないのは、娯楽と風刺がどっちつかずでアンバランスになったからです。ですからラストの皮肉な味が釈然としませんでした。


ザ・バンク 堕ちた巨像
The International

  • 2009年 / アメリカ、ドイツ、イギリス / カラー / 117分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12
  • MPAA(USA):Rated R for some sequences of violence and language.
  • 劇場公開日:2009.4.4.
  • 鑑賞日時:2009.4.25.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜PREMIER ドルビーデジタルでの上映。公開4週間目の土曜日19時15分からの回、99席の劇場は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/theinternational/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、壁紙、パズル系ミニゲームなど。