ヨッターマン Yotta Man

中川昭一(故・峰岸徹)の表の顔は財務大臣だったが、もう1つの顔があった。酒を飲むとろれつが回らなくなり、敵を欺くヨッターマンに変身するのだ。宿敵スウォッチメン(R)を相手に奮闘する姿を描く、人気コミックの映画化。

現実と非現実を重層的に描く手法は、格段新しい訳でもありません。しかしそこに今の日本の政治事情を絡ませて鋭い風刺を盛り込み、しかも上質のエンターテインメントとして描くのであれば、興味をそそられます。

ヨッターマンは特殊能力の持ち主ではありません。彼はバットマンやアイアンマン同様、普段は金持ちの二世ですが、酒を飲むと酩酊状態で数々の騒動を引き起こす、一つ間違えば単に迷惑な人です。総選挙当選でダルマの目を墨で塗りつぶして、めでたい筈が墨涙ダルマで場を凍りつかせて全国放送されたり、宮中晩餐会らしき会場にて南欧某国国王の前で絡んだりします。世間は、マスコミは、彼を叩きます。単なる酔っ払いのボンが、と。しかし彼は負けません。ヨッターマンとしての信念があるからです。「地盤は、渡せない」と。

ここに現代の政治、つまりは親の七光りで世間からは冷たい目で睨まれ、プレッシャーに押しつぶされそうになって酒に逃避し、しかし苦闘する主人公の姿に、大多数の観客は複雑な思いを抱きつつ、声援を送ることでしょう。大臣だった実父へのエディプス・コンプレックスを絡ませ、映画は巧みな心理劇を滑り込ませます。それだけだと重苦しいドラマに過ぎませんが、これは娯楽作でもあります。

宿敵スウォッチメン(R)は、現代ならではのヒーロー軍団です。しかしそれぞれ、自分たちが現代に必要とされているのか、悩む存在でもあります。そんな彼らに対して、自らへの怒りをぶつけるヨッターマンは自己矛盾の塊ですが、ドラマがドラマを呼ぶ中、大アクションとサスペンスのつるべ打ちが展開され、観客は160分余の上映時間、スクリーンから目を離せません。

結局のところ、ヨッターマンもスウォッチメン(R)も、自らが生きにくい現代で苦悩するヒーローです。そこに自己の存在確認を求める我々現代人の象徴と見なすのは、当然でもあります。『ヨッターマン』は娯楽と芸術の融合したヒーローものとして、特筆すべき出来栄えです。

  • 公式サイト:http://www.nakagawa-shoichi.jp/ 予告編、キャスト紹介、プロダクション・ノート、「ヨッターマンが語る」、「活動報告」など。
  • 4/2付記:『ヨッターマン』というのはエイプリルフールの冗談であり、実在しない映画になります。悪しからず。