ミラーズ


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

元N.Y.市警の刑事ベン(キーファー・サザーランド)は、1年前に同僚を誤射で死なせて停職処分となり、アルコールに溺れて妹アンジェラ(エイミー・スマート)のアパートに身を寄せていた。別居中の妻エイミー(ポーラ・パットン)や子供達への未練もあり、社会復帰の為に夜警の仕事に赴く。担当となったのは5年前に大火で廃墟となったデパート。先任者は怪死していた。夜中のデパート巡回中に、ベンは真新しく見える大鏡に引き込まれそうになる。やがて周囲では怪事件が頻発し、怪異は家族の身にまで及ぼし始めた。ベンは事件の真相を突き止め、阻止しようとする。


オカルト・ホラーの世界に、TVシリーズ『24』(2001-)の主人公ジャック・バウアーを放り込んだらどうなるか。その回答がこの映画です。バウアー役ですっかり固定化したキーファー・サザーランドの近年のイメージを、主人公ベン役に上手く使っていて、これが結構面白いのです。


前半は超自然現象を扱ったオーソドックスなホラー。主人公が刑事ということで、後半はオカルト捜査もの。その流れもスムースで、一粒で二度美味しいではないですが、中々楽しませてくれます。怪異に対して何とか対抗策を講じて反撃しようというのも、アメリカ映画らしい。オカルト探偵映画・刑事映画は意外に少ないので、ちゃんと捜査ものになりつつも、ホラー映画であることを忘れていません。それでも主人公がジャック・バウアーそのままなので、行動が直情的。尚且つ、ホラー映画でこれだけ銃を撃つ主人公も珍しい。後半に至っては次から次へと怪異が起こる中、元同僚などを使っての捜査と実力行使で、正に『24』そのまま。忙しいことこの上ありません。キーファー・サザーランドも手馴れた役とは言え、熱演していて好ましい。主人公そのものが目新しくなくとも、状況が状況なのでかえって新鮮に感じます。オリジナルの韓国映画『Mirror 鏡の中』(2003)は日本では劇場未公開ということもあって、まるで知らない作品だったのですが、恐らくこのリメイク版は、設定だけを借りた別物になっているのではないでしょうか。


デパートのセットは重厚でスケールもあり、舞台となるお化け屋敷に相応しい。製作費はそんなに掛っていない映画の筈なのですが、作品に雰囲気とスケール感を与えるのに大きな貢献をしています。となると正統派オカルト映画になりそうなものですが、中盤のいささかショッキングで不必要なスプラッター場面など、監督アレクサンドル・アジャの個性が出ています。この人は心霊現象の恐怖よりも、直接的な人体破壊描写の方を信じている人なのでしょう。特にそれが顕著なのが終幕の肉弾戦。ベンと怪異の正体とが、文字通り身体を張って闘います。こちらも蛇足気味かつ本来ならば雰囲気ぶち壊しの筈なのですが、笑える馬鹿力として楽しめました。


アジャの馬鹿力が上手い具合に行っているのが後半の恐怖描写。鏡から何かが襲い掛かってくる。ならば鏡を全部覆い隠してしまえ。しかしここからの怪異側の反撃が面白い。鏡の定義を拡大解釈しての展開は強引ながらも納得出来るもので、アイディアともども楽しめました。終幕では派手に盛り上げ、最後に気の効いたオチも用意されています。実はそのオチは読めてしまったのですが、その先にさらにオチがある二段構えとなっていて、こちらも面白かった。何が何でも観客を怖がらせよう、あの手この手で映画を盛り上げようという意気込みが楽しい。反面、音楽にもその意図が強く出過ぎています。やかましい音楽を多用し過ぎて効果音との判別が付きにくくなるという、近年のハリウッド映画の悪しき例の1つに取り込まれていました。


主人公の妻役ポーラ・パットンは『デジャヴ』(2006)で知った女優なのですが、ホラー映画に相応しいシリアスな熱演でした。妹役エイミー・スマートは出番が少ない上にあんな役で残念でしたが、脇役に人間味を与えることに成功していたと思います。


ミラーズ
Mirrors

  • 2008年 / アメリカ、ルーマニア / カラー / 111分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):R-15
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence, disturbing images, language and brief nudity.
  • 劇場公開日:2008.12.26.
  • 鑑賞日:2009.1.2./ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン8 ドルビーデジタルでの上映。正月2日目の金曜日18時25分からの回、99席の劇場は30人近くの入り。
  • 公式サイト:http://movies.foxjapan.com/mirrors/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、オフィシャル・プロデューサー若槻千夏の部屋、などなど。