U23D


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


アイルランドのロックバンド、U2が2006年に行った「Vertigoツアー」でのライヴを収録した、ナショナル・ジオグラフィック製作による3D映画。と言っても普通のライヴ映画ではなく、相当に手間が掛っているものです。2006年春のブラジルで行った7回のライヴと、同年秋にメルボルンで行った2回のライヴを撮影し、さらにアップ用に観客無しで追加撮影が行われたとか。これはコンサートの模様を収めた映画ではなく、U2のコンサートを3Dで体感してもらうのが目的の映画なのです。


これは今までに観た中でも、最高の部類に入る3D映画です。いや、それ以上に3D映画の秘めた可能性が観られました。


内容は前述のように、ひたすら曲を演奏するバンドメンバーの姿と、熱狂に包まれる会場(ブラジルのようです)の模様を追ったものです。だったら普通のライヴヴィデオと同じではないか、と思われるかも知れません。ところがこれが劇場での立体上映になると、もの凄い迫力で迫って来るのです。


序盤、ラリー・ミューレン・ジュニアのドラムセットが画面から浮き出てくるのを観て軽い感動を覚えましたが、それ以降はひたすら圧倒されました。ヴォーカルのボノがキャメラに向かって伸ばした手や、ジ・エッジのギターのネックなどが飛び出すとかもありました。しかしそれ以上に驚いたのが、映画全体の立体感です。数十メートルはある巨大ステージ。何人いるのだか分からない、ぎっしりの聴衆で埋まった会場。これらの奥行きが3D映画ならではの立体感で迫って来ます。


劇場はシネコンの中でも小ぶりな部類でしたから、スクリーン・サイズだって左程大きい訳ではありませんでした。しかしこの立体感・奥行き感でもって、いつの間にか自分が画面に吸い込まれそうになります。没入感が物凄く、こういった感覚は始めての体験でした。最初にアイマックス(巨大フィルムでの超大画面映画)での3D上映を観たときも迫力に圧倒されて感動しましたが、これはそれ以来の体験でした。トリッキーな映像ではなく、正攻法であっても、臨場感が普通の映画では体験出来ないくらいにあるのです。


U2のファンでも無いし、特に近年の曲は全く知らないのですが、初期から中期に掛けては結構好きな曲もあります。ですから1曲目の『ヴァーティゴ』よりも3曲目の『ニュー・イヤーズ・デイ』で映画に引きずり込まれました。特にこの曲と6曲目『サンデイ・ブラッディ・サンデイ』の破壊力は凄まじく、会場でも聴衆の歓喜と熱狂が爆発していました。アリーナ席の観客は皆ジャンプしているので、地面も揺れていたに違いありません。こちらも思わず足でリズムを取ってしまいました。後半の『プライド』サビ部分で、ボノの声が若い時期に比べてハリが無いとかありましたが、これだけ厚みのある音を4人で出しているのはやはり凄い。


音量も普通の映画上映時より大きめだったようです。アダム・クレイトンのゴリゴリしたベース。ラリーの地響きのようなドラムス。この2人の剛胆なリズムに、ジ・エッジの切れ味鋭くも広がりと厚みのあるギターが乗ります。そして解き放たれるのは、魂から振り絞ったようなボノの歌声。各メンバーの出す音が、単なる轟音ではなく、高い分解能でもって四方から襲い掛かって来ます。上映時間90分弱で良かった。2時間だとへとへとになったでしょう。


これはまさしく「体験」と呼ぶに相応しいもの。自宅では逆立ちしても出来ない体験。これぞ「映画」です。


もちろん、前述したように時間と手間を掛けて徹底的に作り込まれた映画だから、これだけの迫力と感動をもたらしたとも言えます。しかし、今後の3D映画の方向性も考えてしまいました。特撮やこれ見よがしの映像ばかりではなく、いわゆる「普通の」映像を3D化する。派手な場面の無いドラマでも、うまく3D効果を使えば没入感が伴い、心揺すぶられる映画が出来上がるかも知れません。


U23D』は3D映画としても素晴らしい出来ですが、同時に3D映画の価値をも気付かせてくれる作品でした。是非、劇場での体験をお薦めします。


U23D
U2 3D