ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト

★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2006年10月29日と同年11月1日、映画用に二夜行われたライヴを、マーティン・スコセッシが収録したドキュメンタリ。収容人数2,800人のニューヨークはビーコン・シアターでの準備から始まり、ジャック・ホワイト、バディ・ガイクリスティーナ・アギレラらのゲストも入ってのコンサート模様を収録。


マーティン・スコセッシの新作ならばと、『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』を観に、劇場まで駆け付けました。ストーンズがこの映画の為に開いたコンサートを収めたドキュメンタリ映画です。


ストーンズの曲は幾つか知っているものの、僕自身はストーンズのファンでは全くありません。しかしストーンズを自作で使うスコセッシは大好き。『グッドフェローズ』(1990)や『カジノ』(1995)、『ディパーテッド』(2006)といった現代ギャング映画での絶妙な使い方は、どれもとてもカッコ良かった。これみよがしな移動撮影や編集技術と共に、楽曲の持つ力強さが非常に効果的だったのは、未だに記憶に鮮明です。


ですがその程度の認識の者が、このコンサート映画を楽しめるのか。暗闇の中の大画面という注意力が削がれない環境での鑑賞とは言え、自分自身でも少々疑問だったのも確かです。しかしこれは劇場で観て良かったと思える作品でした。


映画はコンサートからは始まりません。ビーコン・シアターでの撮影用ステージ作りなど、準備段階をモノクロ映像で描き出します。コンサートでのセット・リスト(曲目リスト)が手元に届かない。曲が分からないとキャメラの準備も分からないじゃないか、と切羽詰るスコセッシと、そんなのまだ決めてないよ、とばかりのミック・ジャガーのやり取りと対比が可笑しい。2人の電話も面白く、普段から点張っているかのように早口のスコセッシが、さらに早口で点張っているのが笑えます。ドキュメンタリにしては出来過ぎですが、この掴みからして、ヒステリックなブラック・コメディ『アフター・アワーズ』(1985)を思わせるスコセッシ節。つまりは笑いと緊張が団子になって、一緒くたになって転がる名調子。そっか、転がる石という名前のバンドを扱った映画に相応しい。しかし主人公のみならず、観客もどこか居心地の悪い目に遭うあちらと違い、こちらは焦っているスコセッシ自身が自虐的に描かれている為に、観客が楽しく眺められるものとなっています。


この前説の中で特に印象に残るのは、「チャーリー・ワッツを撮るのに良いアングルがあるんだ」と、キース・リチャーズがスコセッシに教えてあげる場面。ワッツのドラムセットに近付くと、バスドラムの正面に空いた穴からキック(バスドラムを叩くもの)が見えるのです。「ここが俺の特等席なんだ」とにこやかに語るリチャーズ。この場面には、映画を通して流れるリラックスした雰囲気が象徴されています。


ギリギリになって監督の元にセット・リストも届き、さてコンサートも開始。『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』からいきなり演奏大爆発。ミック・ジャガー独特の身体の動きと共に、映画全体が観客の歓喜の渦に巻き込まれます。まずはアップテンポな2曲が披露されると、映画はいきなりデヴュー間もないミック・ジャガーのインタヴュー映像に切り替わります。「いつまで音楽活動を続けられるか分からないよ」と答える、若かりし頃、20歳そこそこのジャガー。いまや皺々になったジャガーの、初々しい顔。ここではっとさせられます。年月の残酷さと同時に、今もまだ魅力的ですらあるジャガーを。


こうして映画はコンサートの合間に、昔のインタヴュー映像(フジテレビ出演時のものもあり)が短く差し挟まれ、アクセントを付けながら進められて行きます。意外だったのは、スコセッシらしいトリッキーなキャメラワーク、ハイテンションなカッティングが殆ど無いこと。曲自体のセレクションもゆったり目なものが多かったからでしょう。ストーンズ・ファンでもない私には、中盤は少々間延びした感もありました。それでも総じて満足出来たのは、映画に流れる独特の雰囲気によるものです。バンドメンバーのゆとりのある表情を切り取り、映画のリズムも曲に乗っかって心地良い。


正攻法でありながら的確なキャメラワークが光る映画は、優秀な撮影監督によって、贅沢な布陣のオペレータ達を取りまとめた結果によります。オリヴァー・ストーン作品で名を上げ、近年のスコセッシ映画や、『キル・ビル』2部作等も担当しているロバート・リチャードソンがその撮影監督。彼の元でオペレータを務めているのが、ジョン・トール(『ラスト サムライ』(2003))、エマニュエル・ルベツキ(『トゥモロー・ワールド』(2006))、アンドリュー・レスニー(『ロード・オブ・ザ・リング』3部作)、ロバート・エルスウィット(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007))、スチュアート・ドライバーグ(『ピアノ・レッスン』(1993))、デクラン・クイン(『レイチェルの結婚』(2008))といった、一流の撮影監督たちです。スコセッシは一度は組んでみたい撮影監督たちに声を掛けたのでしょうか。あるいはリチャードソンの意向か。こういった面々が集まるというのも、さすがスコセッシです。


チビTシャツを着て、腹筋をちらちら見せ付けるジャガーナルシシズム。その肉体と独特の動きでもって、大画面で観ると妙に強烈な印象が残ります。にこやかに演奏するロン・ウッド。無表情ながらも「悪くない」と言いたげなチャーリー・ワッツ。彼ら同様にリラックスしながらも、独りキース・リチャーズがタバコすぱすぱで不良度を下げず、また彼1人だけがお腹も出ているのも何だか良い。リチャーズがリード・ヴォーカルを取る曲も2つ用意されており、ここでの彼の穏やかさはこちらにも伝播します。狭い会場でのバンドと聴衆の距離の近さもあって、映画と観客の距離も近くなります。合間に挿入されるインタヴュー映像もその効果に貢献しているのは、言うまでもありません。このようにストーンズのメンバーを捉えますが、一方では大勢いるサポートメンバーは背景にしか過ぎない割り切った扱いとなっています。


サウンドは凝っており、ショットごとに奏者が映るとそのパートの音量レヴェルが上がっていました。例えば、キース・リチャーズのギターのパートが捉えられると、彼のギター演奏音が大きくなる、という風に。音楽ものの場合、演奏される楽器が映ると、特にサウンド・レヴェルを上げなくとも、その演奏が自然と耳にフォーカスされるものなのですが、この映画はそれを人為的にやっていました。そのレヴェルの上げ方もやかましくないので、演奏の興が削がれることがありませんでした。


ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト
Shine a Light

  • 2008年 / アメリカ、イギリス / カラー、モノクロ / 122分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for brief strong language, drug references and smoking. (edited for re-rating; originally rated R for some language)
  • 劇場公開日:2008.12.5.
  • 鑑賞日:2008.12.23./TOHOシネマズ ららぽーと横浜6 ドルビーデジタルでの上映、天皇誕生日21時からのレイトショウ、205席の劇場は20人ほどの入り。親娘(20代)連れもいて、二世代ストーンズ・ファンのようで楽しんでいた様子。
  • 公式サイト:http://www.shinealight-movie.jp/ 予告編&TVCM、映画からの抜粋映像(『Some Girl』)、壁紙&バナー、プロダクション・ノート、セット・リストなど。