マンマ・ミーア!

★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

美しいギリシャの島で小さなホテルを切り盛りする母ドナ(メリル・ストリープ)と2人で暮らす娘ソフィ(アマンダ・セイフライド)は、恋人スカイ(ドミニク・クーパー)との結婚式を間近に控えていた。ソフィには、父親と結婚式のヴァージン・ロードを歩きたい、という夢があった。父親を知らない彼女は、若かりし頃の母親の日記を密かに読み、父親候補の3人の男性、建築家サム(ピアース・ブロスナン)、銀行マン・ハリー(コリン・ファース)、冒険家ビル(ステラン・スカルスガルド)に、母親に内緒で結婚式の招待状を送る。鉢合わせして島にやって来た3人だったが、偶然にもドナが彼らを目撃してしまったことから、騒動が巻き起こる。

往年のスーパーグループ、アバの数々のヒット曲を散りばめたロンドン・ミュージカルが大評判を取りましたが、これはその映画版。製作ジュディ・クレイマー、脚本キャサリン・ジョンソン、監督フィリダ・ロイドの3人は変わらぬ布陣です。舞台版は観ていませんが、主要スタッフが同じなのですから、舞台版の精神が引き継がれたものと思って良いでしょう。


ムーラン・ルージュ』(2001)以降、ミュージカル映画が次々と作られるようになったのは、個人的にはとても嬉しいことです。スターが歌って踊る姿を観られるのは楽しいですからね。特に近年製作されるミュージカル映画は、ほぼ吹き替え無しで本人が歌っている場合が多い。本作もその流れに乗って作られた映画です。その中でも、これは僕が観た最近のミュージカル映画の中で、最も不出来な1作と言えます。


ミュージカルなのだから歌える役者を揃えるのは当然ですが、とにかくこの映画のピアース・ブロスナンはひどい。元々演技は左程上手くないスターですが、本作ではメリル・ストリープという達者な役者の前で、演技も歌もひどいのが引き立ちます。特筆ものはしわがれたヒキガエルのような裏声で、よくぞこの下手さで出演出来たものだと感心してしまいました。僕が観た中では最低最悪のミュージカル俳優です。


また舞台版を映画に置き換える手法も失敗しています。横長画面を採用しているにも関わらず構図が広がりに欠け、折角のロケ撮影も引き立ちません。せせこましい舞台臭が残り香となっていて、妙に窮屈な映画となってしまいました。南の島での恋模様という楽しい題材を扱いながら、開放感が無いのは残念。これは演出の問題でしょう。


映画用の脚色にも失敗しています。舞台ではある程度の嘘や脱線も許されます。例えば、青年役を多少年齢を重ねた男性が演じるとかもそうですが、そもそも劇場の空間という閉じられた場所で、役者たちが自分の目の前で演じらていても、設定が屋外であれば観客は自分で屋外だと納得させるのですから。舞台作品は観客の想像力があって完成するものです。恐らく『マンマ・ミーア!』舞台版は、「アバの曲のみを使用するという縛りの中で、色々と多少の無理があっても、皆で往年の名曲を楽しみましょう」という約束事の上で成り立っていたのではないでしょうか。映画版では舞台での約束事をどうやらそのまま映画に持って来てしまったようです。不要な場面や強引な展開が目立ち、散漫でとっちらかった印象を与えています。


キャスティングにも疑問が沸きます。ブロスナンだけではなく、59歳メリル・ストリープの起用もそう。いくら歌と演技が上手くても、20歳の娘がいる母親役というには歳を取り過ぎていやしないか。恐らく役の設定は40代半ばくらいなのではないでしょうか。先に書いたような理由で、もし舞台版ならば許された起用でしょうが、映画ならばもっと若い役者にするべきでした。


と、ここまで散々書いていますが、それでも正直に白状しましょう。僕はこの映画を笑って楽しみました。スターを起用しても男性陣が見事なまでに冴えず、男はどうでも良いような存在として描かれ、完全に女性の引き立て役となっていたとしても。これは女性全員が元気な映画で、それを観て楽しむ映画なのです。大体にして、ひと夏に3人の男性と付き合った結果、父親が分からない娘が居るという設定自体、女性主導の物語。ドナの2人の親友役の役者、ジュリー・ウォルターズクリスティーン・バランスキーも元気いっぱいで楽しく、特にバランスキーは『シカゴ』(2002)同様に見事な歌唱力を披露してくれます。ソフィ役アマンダ・セイフライドが可愛く歌も悪くないのに、彼女たち中年女性トリオに比べて影が薄くなってしまったくらいです。


そして楽曲の数々。僕はアバ世代ではありませんが、親しみやすく美しいメロディとアレンジもあって、知らない曲が多くとも十分に楽しめました。この映画を救った最大の功労者はアバです。


マンマ・ミーア!
Mamma Mia!

  • 2008年 / イギリス、アメリカ、ドイツ / カラー / 108分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some sex-related comments.
  • 劇場公開日:2009.1.30.
  • 鑑賞日:2009.12.28./自宅 UK盤Blu-ray Disc(日本語字幕入り)、ドルビーデジタルでの鑑賞。
  • 公式サイト:http://www.mamma-mia-movie.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、ダンシング・ゲーム、メリル・ストリープへのインタヴュー動画、各キャラクターへの架空インタヴューなど。