ブラッディ・バレンタイン3D


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

社長の息子で新米作業員のトム(ジェンセン・アクレス)は、オペレーションミスによって炭鉱事故を引き起こしてしまう。唯一の生存者ハリーは昏睡状態となったが、覚醒後にツルハシで22名を惨殺し、刑事らに追われて炭鉱の奥へと消えた。バレンタイン・デーに起きたあの惨劇から10年後。トムは帰ってきた。父の死去によって炭鉱を相続したものの、売却するつもりなのだ。だが町を再び血みどろの殺人事件が襲う。ヘルメットを被り、ゴーグルとガスマスクを装着し、凶器のツルハシを振るう男が出現したのだ。ハリーが帰って来て凶行を重ねているのではないか。トムの潔白を信じるのは、かつてのガールフレンドのサラ(ジェイミー・キング)のみ。サラの夫となった嫉妬深い保安官アクセル(カー・スミス)らから容疑者扱いされながら、真犯人を探し出そうとするトムだったが。


「ラブホラーアトラクション」。今回、日本の配給会社が謳った宣伝文句です。劇中の設定と劇場公開日がバレンタインデーだからとか(おまけに主役はTVシリーズ『スーパーナチュラル』の兄貴役ジェンセン・アクレスだから、ロマンティック?)、血しぶきたっぷりのホラーだからとか、3D上映というアトラクションだからとか、その由来が安易に想像が付きます。こういったゲテモノ映画らしく安手の言葉が可笑しい。今回、僕が劇場まで観に行った最大の理由は、その3D上映にあります。


近年の3D上映は目への負担も少ないし、効果自体も立派なもの。赤青メガネ方式で自宅立体上映が出来るDVDソフトもあるにはありますが、その方式は目が疲れます。それに比べて日本ではワーナーマイカル中心に普及しているReal D方式は、メガネも軽いし、顔を傾けても立体効果が損なわれず、疲れにくい。かなり優秀なシステムではないでしょうか。家庭用は実用化されていないので、これを体験出来るのも劇場ならではの楽しみです。それに3D上映方式のスラッシャー/スプラッター映画というと、過去にはアンディ・ウォーホル製作の『悪魔のはらわた』(1971)や、『13日の金曜日Part 3』(1982)などがありましたが、近年はこの手の映画では殆ど無かった筈。さぁ、画面から何が飛び出すやら。びっくりさせてもらいましょう。


オリジナル版の『血のバレンタイン』(1981)は未見です。そちらは特に評判が良い訳でも無く、また大ヒットした訳でもなさそう。しかしこれをリメイクしようとした製作者達の目の付け所は悪くありません。この手の映画に珍しく、犯人はいささか道徳観の欠如したティーンエイジャーを無差別に殺害するのではなく、過去の事件を知っている大人達のみを狙います。ですから命を狙われるヒロインも子持ちの主婦。ジェイミー・キングが田舎の主婦役が似合うとはちょっとした驚きでした。


映画は10年前の陰惨な事件に端を発した事件の行方がメインとなっていて、話しはそれなりに工夫がされており、犯人探しの興味もあります。ですがミステリ映画としては明らかにアンフェアだし、真犯人の正体も伏線が張られている訳でもなく、単におどかし効果を狙ったもの。そもそも作り手達は正統派ミステリ映画など作っているつもりはありません。ここは単純にびっくりさせるホラー映画として楽しみましょう。終盤は話も中々盛り上がるし、僕自身は楽しめました。


肝心の立体効果ですが、これが楽しい。制作会社ライオンズゲートのロゴに始まり、続く冒頭での画面に映し出される過去の新聞記事の文字や写真までもが、派手に画面から飛び出します。ここいら辺はスタイリッシュで格好良く、如何にも最近の映画といった感じで、それが飛び出すのだから面白い。しかし3D上映は字幕ではなく吹替え版ですので、そういった新聞記事の文字や、何気に映る看板などの文字がまるっきり訳されていないのは、観客にとって情報の欠落となり得ます。こればかりは吹替え音声などで対応するしか無いでしょう。


ハイビジョンカメラ撮影ということもあって、画質はビデオらしく非常にクリアで見通しが良い。逆に夜の森や炭鉱内、屋内の場面などでは明るく感じて、これが若干恐怖感を落としているようにも思えました。当然ながら映像は立体効果を狙ったものが多いのですが、物体が画面のフレームに掛かってしまう場合も多く、気になりました。フレームに掛かると立体効果が減少するのです。しかしこちらに向かって飛び出すツルハシや目ん玉など、笑わせてもらいました。


これは製作者側の責任ではないのですが、日本劇場公開版は数分間カットされているのが残念です。前半にある3人まとめて殺される場面がまるごと無く、殺害後の場面に飛んでしまいます。映倫の横槍だとか色々とネットでも言われていますが、真相は分かりません。ここは全裸女性の正面場面があるらしいので、そうなると日本では修正が入ってしまいます。3D映画に修正を掛けるのは恐らく立体効果に影響する為、場面まるごとがカットされたのではないでしょうか。女優に惨殺メイクした全裸死体は無修正で、全く訳が分かりませんでしたが。


3D映画としての娯楽性は良いのですが、ホラーとしてはややヌルめでした。これは先に挙げたようにハイビジョン撮影で画面が明るかったのと、3D映画は細切れ編集に向いていない(細切れだと立体効果が低下する)ので緊張感を高めるのが難しい、などが考えられます。特に後者については、じっくりと緊張感を盛り上げる手法が求められるので、画面の構図で先端恐怖症を煽れても、編集ではタイミングやリズムに細心の注意を払わないと、間延びしてしまう場合もありそうです。


眼への負担もあって長時間上映には向かないなどの欠点もありますが、やはり3D映画は劇場で観るに相応しい見世物です。特に今回思ったのは、こういった扇情的映画は3D映画との相性が良いということ。ホラー映画は元々見世物的要素が強いのですから、同じく見世物的な3D映画と相性が良いのも当然でしょう。


ブラッディ・バレンタイン3D
My Bloody Valentine

  • 2009年 / アメリカ / カラー / 日本劇場公開版:95分(オリジナル版:101分) / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15
  • MPAA(USA):Rated R for graphic brutal horror violence and grisly images throughout, some strong sexuality, graphic nudity and language.
  • 劇場公開日:2009.2.14.
  • 鑑賞日:2009.2.28./ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン2 ドルビーデジタルでの上映。土曜21時30分からのレイトショー、348席の劇場は10人弱の入り。
  • 公式サイト:http://burabare.com/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、壁紙ダウンロードなど。