オーストラリア


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1930年代末。オーストラリアの第二次世界大戦参戦前。英国貴夫人のサラ・アシュリー(ニコール・キッドマン)は、夫の後を追ってオーストラリアに来る。だが夫は1,500頭もの牛を連れて大移動し、軍に売るという志半ばにして殺されていた。サラは後を引き継ぐべく、牛追い(ヒュー・ジャックマン)を雇って牛を長距離移動させようとする。だが行く手には、ライヴァルの大富豪カーニー(ブライアン・ブラウン)配下のフレッチャー(デヴィッド・ウェンハム)が放つ数々の妨害が待ち受けていた。


ニコール・キッドマンヒュー・ジャックマンという、オーストラリア出身スターが主演だし、監督は傑作『ムーラン・ルージュ』(2001)のやはりオーストラリア人バズ・ラーマン。画面に映し出されるのは、オーストラリアの雄大大自然。これが70mm撮影、70mm上映だったらもっと高画質で良かったのにと思わせますが、画面映えする長身美男美女も含めて劇場で観るに相応しい映像には違いありません。ちょっとした観光映画の趣もあります。


しかし映画としての出来はまぁまぁと言ったところ。2時間40分強もの大作ですが、これは2時間に収められる内容でしょう。女と男の最悪の出会いと、キッドマンの大袈裟コメディ演技などで笑わせ、快調に始まりますが、以降は適切なテンポでゆったりと進みます。前半はロマンスを絡めた大作西部劇。後半は日本軍による空襲というスペクタクル映画となっていて、『風と共に去りぬ』(1939)のアトランタ大火災を意識したもの。つまりはオーストラリア版『風と共に去りぬ』を目指した意欲作なのです。しかし後半の、終わるかと思わせて延々続く展開は、とにかく長い。作り手達の祖国への愛情と、男女のロマンスを描くのであれば、内容を刈り込んで良かった筈。長過ぎて個々の要素の印象が薄まってしまいました。


物語に重要な要素として登場するアボリジニの描き方は、かなり神秘的になっていて、ファンタジーぎりぎり一歩手前。遠慮も感じられて、やはりこれは白人の作った映画だと思わせます。ラストの一文にあるように、近年まで彼らを迫害して来た負い目もあるのではないでしょうか。


ラーマンの演出は、いつもの偽悪的なまでのケバケバしさは鳴りを潜め、珍しく正攻法です。力も入っているのですが、大雑把なのはいつも通り。『ムーラン・ルージュ』のように、大雑把さとけばけばしさが馬鹿力によってくっ付けば傑作も生まれますが、本作ではやや雑に感じられました。特に後半は劇的な展開を幾つも用意しているのに、感情的な盛り上がりに欠けます。


それでも美しい大スターを大画面で眺められるのは、映画ファンにとっての楽しみの1つです。特に本作では、貴婦人として登場したキッドマンが徐々に土に汚れてさらに美しくなる様と、土臭いカウボーイ役ジャックマンのとある場面での変化が目を引きます。特に後者の役は、当初予定されていたラッセル・クロウでなくて良かった。彼が降板したお陰でお鉢が回って来たジャックマンは、ニコールとの相性も良い。クロウも男臭いカウボーイ像を別のアプローチで表現出来たでしょうが、果たしてロマンティックな役が出来たかどうか。白タキシードでの再登場場面など、ジャックマンの独壇場になっています。若い頃のクリント・イーストウッドに似ているジャックマンが、イーストウッド同様に土臭いカウボーイ役が似合うのも面白かったです。


儲け役は、徹頭徹尾悪いヤツを演じるデヴィッド・ウェンハムです。劇中ではありとあらゆる悪事を一手に引き受け、憎たらしい敵役として楽しませてくれます。


オーストラリア
Australia

  • 2008年 / アメリカ、オーストラリア / カラー / 163分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some violence, a scene of sensuality, and brief strong language.
  • 劇場公開日:2009.2.28.
  • 鑑賞日:2009.3.4./ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン6 ドルビーデジタルでの上映。平日水曜9時55分からの回、187席の劇場は10人ほどの入り。
  • 公式サイト:http://movies.foxjapan.com/australia/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、壁紙ダウンロード、ラーマン&キッドマン&ジャックマンが来日してのジャパン・プレミア採録など。