チェ 28歳の革命 / チェ 39歳 別れの手紙


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1950年代末。アルゼンチン人のチェ・ゲバラベニチオ・デル・トロ)は、フィデル・カストロデミアン・ビチル)と意気投合し、米政権と組んでキューバを圧制の下に敷くバティスタ政権を打倒すべく、ゲリラ戦を繰り広げる。政権を打倒後、ゲバラは1964年に国連で演説を行う。各国からの反キューバ声明に対してそれぞれ反論し、大国アメリカの支援の下による南米諸国の圧制について、民衆の反乱を宣言した。革命の波を南米全域に広げようと、1966年末にゲバラは単身ボリビアに渡り、ゲリラ部隊を組織する。しかしCIAと組んだオルトゥニョ政権が送り込んだ軍隊により、徐々に追い詰められて行く。


スティーヴン・ソダーバーグ監督による2部作は、第1部と第2部で合わせて1本の映画として観られる、いや観るべき作品となっています。近年は『オーシャンズ』シリーズでヒットメイカーの顔も持つソダーバーグですが、本作は予想通りに娯楽路線では一切無く、ストイックな作りとなっています。


第1部では1950年代末のキューバ革命を主に、1964年の国連におけるゲバラの演説がモノクロ映像で挟み込まれ、全体を1950年代初頭のゲバラフィデル・カストロとの出会いの場面でサンドウィッチしている構成となっています。モノクロの国連関連場面が挿入されることにより、単調になりそうなゲリラ場面に対して効果的なアクセントとなっています。対して第2部はストレートな構成となっており、ゲリラ部隊を率いるゲバラが追い詰められて行く様をじっくりと描いています。


ゲリラ戦の日々は、恐らくは怠惰な日常と血も凍るような戦闘に二分されるのでしょうが、信念の人ゲバラにとっては、どちらも革命に生きる自分にとっては大切な時間だったのでしょう。平時は部下を率いて訓練を行い、時間の合間に書にいそしみ、執筆を行う。部下だけではなく、自分にすら厳しい。それもこれも、圧制の下にある南米を解放していく理想を持つ革命家である為。


全体的に淡々としたタッチで大袈裟な描写は微塵も無いのですが、随所に挟み込まれる戦闘場面は緊張感満点。革命への成功を歩むゲバラを描く第1部は、2.35:1のスコープサイズによる横長で開放感のある構図を用い、ある種壮観な戦争映画としても観られます。それでも前述したようにストイックな映画は、戦闘場面でさえ途中で打ち切ります。このように、盛り上がりを意図的に全て排除した作りになっています。ストイックな人物像を描き出す映画をストイックにした決断は、支持したい。


とにかく徹底しているのが、ドキュメントタッチな手法。ゲバラの心象風景や心理描写だけではなく、状況説明すらばっさり切り落とし、彼の言動のみ、それも政治闘争はまるで登場させず、武装闘争の人としての側面のみを切り取った映画となっています。この極端な手法により、ゲバラに近付くのは観客自身の使命となっています。観客に意図的な感情移入を許さずとも、観客に観察させ、登場人物に近付かせます。つまり、この映画は対象との距離を置かないことによって、観客に対象まで肉薄させているのです。


ゲバラと言えば、今やTシャツなどにプリントされているアイコン。その像を神格化、英雄化することせずに、ただただ事実に即して描こうというこの姿勢。観客の安易な感情移入を拒む作りになっているのですが、冷徹に近いタッチゆえ、ゲバラの信念が浮き上がります。結果的に、ゲバラを凄い、もしくは尊敬し得る人間だと観客に思わせる大きな可能性を秘めています。


主役ベニチオ・デル・トロは熱演ではなく、渋い好演でした。人間味ある演技が素晴らしい。賞受けするような大袈裟な演技は無いのですが、実在感がある。元々好きな役者でしたが、益々好きになりました。この人の演技はこれ見よがしなものが少ないのですが、その良さがこの映画では引き立っているように思えました。



第1部『チェ 28歳の革命』同様、第2部『チェ 39歳 別れの手紙』も冷徹なタッチでゲバラを描きます。ストイックさは第1部以上。栄光への道を描いた、ある種戦争スペクタクル映画としても観られなくもなかった第1部に比べ、やることなすこと全て裏目に出て徐々に追い詰められていく、徹頭徹尾失敗へのプロセスが描かれています。あちらが画面比2.35:1のスコープサイズなのに対し、こちらは1.85:1と、横幅が狭い画角で撮られています。ボリビアで革命運動を起こそうとして失敗し、最後は処刑されるまでのゲバラ最後の1年を描いているのですから、対象に迫ろうとする画角も当然の選択とも言えます。


主な舞台はジャングル。うっそうとした自然の中で、幾たびもの命が失われて行きます。それでもゲバラは強靭な意志で立ち向かおうとします。圧制された民の解放を信じて。幾つもの作戦失敗が重なり、遂には掃討されてしまうのですが、ゲバラ処刑の瞬間までも感動映画とはしません。緊張感こそあれど感情的な盛り上げは無く、淡々としています。


1部2部合わせて4時間半という長尺映画ですが、ある時代の中で高い目標と強い意志でもって懸命に生きた男の像を描いた点で、これは評価出来ると思います。長い1本の映画として観た場合、取っ付き易い映画ではなく、ぎりぎり退屈の二歩手前で踏み止まる映画は、それでも少々長い。淡々としたタッチとは別に、作り手の情熱が画面から感じられるだけに、あと1時間は短くして、観客にとっての敷居を少し下げても良かったのではないでしょうか。


ソダーバーグ、ベニチオ・デル・トロの両人にとっても、代表作の1つと呼んで良い映画でしょう。



チェ 28歳の革命
Che: Part One

  • 2008年 / アメリカ、フランス、スペイン / カラー、モノクロ / 132分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for some violence.
  • 劇場公開日:2009.1.10.
  • 鑑賞日:2009.1.31./ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン7 ドルビーデジタルでの上映。土曜17時15分からの回、116席の劇場は7割の入り。


チェ 39歳 別れの手紙
Che: Part Two

  • 2008年 / アメリカ、フランス、スペイン / カラー / 133分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for some violence.
  • 劇場公開日:2009.1.31.
  • 鑑賞日:2009.1.31./ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン12 ドルビーデジタルでの上映。日曜15時00分からの回、180席の劇場は6割の入り。
  • 公式サイト:http://che.gyao.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、ゲバラ年表&地図、明治大学でのマスコミ&学生たちとのソダーバーグとデル・トロの質疑応答採録、ジャパンプレミア採録など。