デス・レース


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2012年のアメリカでは経済が破綻し、犯罪発生率も急増、刑務所は民間企業によって運営されていた。重犯罪者専門の刑務所ターミナル・アイランドでは、犯罪者が出場する死のカーレース「デス・レース」が人気を博し、刺激を求める視聴者に娯楽を提供していた。元カーレーサーのエイムズ(ジェイソン・ステイサム)は愛する妻子殺害の濡れ衣を着せられ、ターミナル・アイランドに収監される。エイムズは刑務所長でレース番組プロデューサーであるヘネシージョーン・アレン)に強要され、デス・レースに出場することになるが。


デヴュー作以外は、一貫してSF、ホラー、アクションを発表しているイギリスの監督ポール・W・S・アンダーソン、初のリメイク作品です。オリジナルは『デス・レース2000年』(1975)。ロジャー・コーマン製作、ポール・バーテル監督、デヴィッド・キャラダイン主演のB級SFアクション映画は、主人公フランケンシュタインの敵役マシンガン・ジョー役で、無名時代のシルヴェスター・スタローンが出演していました。オリジナル版は未来の娯楽である大陸横断殺人カーレースという設定で、老人・子供・障害者を轢き殺すと高得点という不謹慎なルールもありました。幼少時にテレビ放映を観ていた僕は、大きな刀が取り付けられている安っぽくケバケバしい車による人体切断映像に、結構な衝撃を受けたものです(今見直すとチャチみたいですが)。おまけにヌード場面も放送されていましたから、そんなのを平気でテレビ放映していたのも、20数年前ならではですね。


さてリメイク版は湾内に浮かぶ島全体が刑務所で、その敷地内での囚人同士の殺人レースという設定に変更されています。マスタングやポルシェなどは装甲板で補強され、マシンガンやミサイルで武装した、ゴツくてリアルなものになっています。反体制派によるデス・レース妨害工作などといった要素も無くなり、フランケンシュタインのマスク、マシンガン・ジョーといった役名のみが残り、それなりに人体破壊描写はあるものの、裸体は無し。雰囲気も含めてまるで違う映画、現代に合った作りに変えられています。結果的にそれが功を奏しました。


各車には、如何にもワルなご面相の運転手と、女子刑務所から来たという美人女囚のナビゲイターが乗り込み、車同士の乱暴極まる戦いに焦点が合っています。レースのルール自体も工夫されており、コース上にあるマンホールみたいなアイコンを通過すると、各車搭載の武器や防御のシステムが作動するようになっていて、ここら辺もスリル盛り上げに一役買っています。アクションの撮り方も中々堂に入っていて、監督自身が大好きという『マッドマックス2』(1981)を彷彿とさせる場面もあり、カタルシスも要所に放り込んでいます。スピード感溢れるアクションと暴力描写がお目当てならば、お手軽な娯楽映画として十分面白い仕上がりです。


但し欠点を挙げるならば、ジェイソン・ステイサム演ずる主人公のキャラが立っていません。妻子を殺された復讐を胸に秘めた元ドライバー、という設定以上のものが無いのです。また、主人公の相棒役ナタリー・マルティネスの扱いが勿体無い。クライマクスでの彼女の行動がやや唐突に見えてしまい、さらに観ていて余計な心配までしてしまいます。そして残念ながら、そのクライマクスがいささか弱いのが最大のマイナス点です。これは、悪役刑務所長ジョーン・アレンへの決着の付け方が今ひとつだからで、カタルシスも今一歩となっています。折角、演技巧者で上品なイメージのある女優アレンの、終盤での超口汚い決め台詞がかなり可笑しい(エンドクレジットの最後にもあり)などという趣向もあり、珍しく悪役の彼女にとって儲け役とも言えるのに。


単純明快なアクション映画として面白いし、アンダーソンらしい気取らない観客サーヴィスと自分の好きなジャンルへの忠誠心が楽しい。例えば、冒頭に登場する人気ドライバーのフランケンシュタイン役が、マスク被っているとはいえ、オリジナル版のデヴィッド・キャラダインというお遊びも含め、過去のジャンル映画への敬愛が溢れています。


デス・レース
Death Race

  • 2008年 / アメリカ / カラー / 105分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence and language.
  • 劇場公開日:2008.11.29.
  • 鑑賞日:2008.11.30./ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン5 ドルビーデジタルでの上映。日曜16時05分からの回、174席の劇場は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.deathrace.jp/:予告編、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノートなど。