ヤング@ハート


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

マサチューセッツ州ノーサンプトンを拠点に活躍するコーラス・グループ、ヤング@ハート。50代の指揮者ボブ・シルマンに率いられる平均年齢80歳の彼らが歌うのは、ソニック・ユースザ・クラッシュレディオヘッド、コールドプレイ、ボブ・ディラントーキング・ヘッズジェイムズ・ブラウンなどの、主にロック、パンク、ハードロックだった。公演前の7週間を追ったドキュメンタリ作品。


上映中、「これは観たことのある映画の中で、一番”ロックしている”映画だぞ」と思って観ていました。メンバーはかなりの高齢者ばかりですから、足が悪い、歌詞が中々覚えられない等は当然です。歌詞カードを持つ手は震えるし、どんな曲か紹介する為にボブ・シルマンがCDを再生すると、轟音演奏に思わず耳を塞いでしまうメンバーもいます。


ですが、彼らがロックを歌うときは、本当にロックしているのです。


ロックとは何でしょうか。


僕自身の持つイメージは、「反抗している」「突っ張っている」「心に溜めた怒りを吐き出している」などといったものです。単純に世の中に迎合せず、鵜呑みにせず、疑問を持ち、心の中のもやもやを叫んで吐き出す。つまりは反抗。これは若者の特権です。本来、ロックが若者の音楽なのは、反抗の音楽だからなのです。


しかし、この映画に登場する老人達が生や恋を謳歌する、あるいは若者の心の叫びを歌うと、根源的な生への渇望となります。生きたい、まだ死ねない、とばかりに。


この映画の撮影中に、中心メンバーの何人かは亡くなってしまいます。老い先短い彼らにとって、生とは逆に生々しいものでもあります。不愉快な現実ではありますが、死は誰にでも必ず訪れるもの。その死への抗いこそ、究極の反抗ではないでしょうか。だからこの映画は、”ロックしている”のです。


裏返して言うと、彼らの生が充実して輝いていることの証しでもあります。歌って観客に喜んでもらえると語るメンバーの活き活きとした姿。『ヤング@ハート』は、生の輝きを写し取った、稀に見る美しい映画なのです。


彼らは本当の意味で若い。慣れ親しんだクラシックに留まらず、新しい歌を受け入れ、自分たちのものにする。若き心を持った老人たちの姿は、外見の若さばかりに拘泥する愚かさとは正反対です。


この映画は、歌とは歌い手によって意味がまるで違って来るということにも気付かせてくれます。映画のハイライトの1つは、『フィックス・ユー』が歌われる場面です。男性2人のデュエットの予定だったのに、公演直前に片方が亡くなってしまい、もう片方のソロとして歌われることになりました。傷心を慰める歌詞が崇高な鎮魂歌となり、マイクに拾われる呼吸器の音さえ優しいリズムに聞こえます。詞の意味が全く変わって来るのに気付いた瞬間に、大きな感動が訪れます。


ドキュメンタリとしては前半はやや散漫に感じられますが、焦点が絞られるに従って、映画は力強く輝き出します。


これは素晴らしい瞬間が幾つも訪れる映画、そしてたくさんの元気をもらえる映画です。是非鑑賞をお薦めします。


ヤング@ハート
Young@Heart

  • 2007年 / イギリス / カラー / 107分 / 画面比1.85:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):Rated PG for some mild language and thematic elements.
  • 劇場公開日:2008.11.8.
  • 鑑賞日:2008.11.22./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘5 ドルビーデジタルでの上映。3連休初日である土曜16時40分からの回、164席の劇場は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://youngatheart.jp/ 予告編、ヤング@ハートの歴史、コーラスメンバー紹介、監督インタヴュー、劇中使用歌など。