レッドクリフ Part I


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

西暦208年。朝廷を裏から操る曹操チャン・フォンイー)は80万の軍勢を率いて、劉備(ユウ・ヨン)率いる民と2万の軍を追い詰める。敗走した劉備軍に後は無く、軍師孔明金城武)は、若き皇帝・孫権チャン・チェン)と司令官周瑜トニー・レオン)に、劉備と手を組むよう、説得に向かう。孔明周瑜は意気投合し、曹操軍の大軍勢を迎え撃つべく、赤壁にて軍を構える。


僕にとっての『三国志』体験とは、NHKで放映されていた名作『人形劇 三国志』(1982-1984)と、ゲームの『三国無双』シリーズくらい。幸いにもそれらのお陰で、劇中の人物関係を混乱すること無く観られました。本作は既に内容を知っているのが前提で作られており、本編前に日本語版独自に追加された、物語の背景・人物紹介を頭に叩き込む必要があります。


二丁拳銃とスローモーション、舞う白鳩がトレードマークの香港ノワールの巨匠ジョン・ウーが、時代劇、それも『三国志』ものを撮るとは意外です。しかしジョン・ウーでさえ映画にするくらいなのですから、それだけ中国人にとっての娯楽小説『三国志演義』は特別な存在なのでしょう。スローモーションを駆使したアクションはこれでもかと登場しますし、二丁拳銃ならぬ二刀流の使い手は無論、白鳩も後半にうんざりするほど出て来るので、紛れも無くウー印そのものの映画となっています。


映画の序盤に用意された、逃げる劉備軍と追う曹操軍による「長板の戦い」大戦闘絵巻が圧巻です。ここまで時間を割いて映画のバランスは大丈夫なのかい、と言いたくなるくらいのこってり、たっぷり。激突する両軍大軍勢、飛び散る血、吹っ飛ぶ兵士たちと大迫力の映像が叩き付けられます。劉備軍の趙雲張飛関羽らの活躍をこれでもかと描いており、人物紹介も兼ねたものとなっています。


戦闘場面だけではなく、全編この調子でとにかくこってり、たっぷり。周瑜孔明の琴合奏も、男と男の目線で意気投合。合奏映像もこってりたっぷり。終幕の赤壁近くで繰り広げられる大合戦場面もしつこいくらいの大掛かりな見せ場となっていて、観ているだけでは我慢出来なくなったのか、「まさかこの人まで・・・」という人物までも参戦して大暴れ。ホラー映画も真っ青な「物陰に引きずり込んで殺す」戦法など、大真面目な奇抜さが含み笑いを誘います。


いや、セルジオ・レオーネマカロニ・ウェスタンを思い出させる人物クロースアップ多用なども含め、くどいまでのこってりたっぷりは良いのです。全編ケレンで埋め尽くしたウーの演出は、「男らしい男たちを描きたい」との心意気が伝わるもの。戦火の時代に男同士の熱い友情を熱く描く魂胆や宜し。しかしながら、その割りにドラマ部分の内容は薄いものとなっています。書割のように分かりやすい人物像は、明快であってもそれ以上の深みはありません。謀略も含めて何もかも全て「情」で描いているのに、その「情」の描き方が薄い。劇中での悪役である曹操も表層的な描写で終わっており、邪悪な低温の炎が描けていません。この内容で2時間20分強は長過ぎます。終幕も戦闘場面後に延々続くので、『Part II』への盛り上がりを見せてから、さっと切り上げもらいたかったところです。本作の位置付けは、赤壁の戦いを見せてくれる『Part II』の前置きという位置付けなのですから、本来ならばもっと短くても良い筈なのです。


と、不満たらたらながらも、実際にはがさつなCG特撮も含めて楽しめたのも本音です。シリアスな歴史絵巻ものを期待していたら、実は超人達の活躍を描く荒唐無稽な英雄譚だった、という素顔も楽しめたし、やたら大袈裟な大合戦場面は中々お目に掛かれないもの。人馬の数だったら『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の方が圧倒的ですし、特撮も良く出来ていましたが、こちらは陣形の変化がとても面白く観られます。


役者は総じて好演していました。主人公である2人の司令官役、トニー・レオン金城武は良かったし、孫権役のチャン・チェンは、私にとっては『グリーン・デスティニー』(2000)以来の再会なので、成長振りに目が行きました。一方、中村獅童はどんな映画に出ても目をひん剥く演技なのが確認出来て笑えました。


来年4月公開予定の『Part II』では、やはり孔明は奇跡を呼ぶのでしょうか。そのときも荒唐無稽振りが楽しめると良いのですが、この調子だと2部作としての映画の完成度に対して、少々不安に感じました。


レッドクリフ Part I
赤壁 Red Cliff

  • 2008年 / 中国、アメリカ、日本、台湾、韓国 / カラー / 145分 / 画面比2.35:1
  • 映倫(日本):(指定無し)
  • MPAA(USA):未公開
  • 劇場公開日:2008.11.1.
  • 鑑賞日:2008.11.2./ワーナーマイカルシネマズ港北ニュータウン1 ドルビーデジタルでの上映。3連休中日である日曜17時20分からの回、434席の1階席は50人程の入り。2階の100席の状況は不明。
  • 公式サイト:http://redcliff.jp/ 予告編、キャラクター&マップ紹介、キャスト&スタッフ紹介、プロダクション・ノート、レポート(第61回カンヌ映画祭、来日記者会見、第21回東京国際映画祭)、インタヴュー動画など。「三国志にまつわる故事成語」(同内容はパンフレットにも記載)は面白いのでお薦め。